今、企業の経営と投資家の関係に大きな変化が訪れています。その中心にあるのが「ESG投資」という考え方です。これは、従来の財務情報だけでなく、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の要素を考慮して投資先を決める手法のこと。この記事が制作された2019年6月19日時点では、世界中でその残高が2017年に30兆ドルを突破するなど、もはや無視できない潮流となり、株主総会もその影響を受けて変貌を遂げている様子が伺えます。
投資家は単に利益の追求だけでなく、企業が社会や環境に与える影響、そして適切な企業統治を行っているかを厳しくチェックし始めています。フランスの運用会社であるナティクシス・インベストメント・マネージャーズの調査によれば、投資家の半数以上が「ESG投資を通じて市場平均を上回るリターンを生み出す」と見ており、社会的な責任を果たすことが、結果的に企業の持続的な成長と高い収益に結びつくという認識が広まっていることが分かります。これは、私たちが生きる社会の持続可能性を重視することが、経済的なメリットにもなるという、極めて現代的な視点ではないでしょうか。
建設業界の安全管理に切り込む株主提案
日本国内でも、その具体的な動きが見て取れます。2019年6月27日に定時総会を控えていた安藤ハザマには、香港を拠点とする投資ファンドのオアシス・マネジメント・カンパニーが株主提案を行いました。これは、同社の工事現場で発生した火災事故などの重大事故を背景に、「安全衛生管理の徹底」を定款に盛り込むことを求めるものでした。定款とは、会社の目的や組織、業務執行に関する基本ルールを定めたもので、ここに安全衛生管理に関する条文を新設せよという提案は、非常に踏み込んだ内容と言えるでしょう。
安藤ハザマ側は、安全対策の徹底を図る意向を示しつつも、会社の基本ルールである定款にそこまで細かな規定を盛り込むのは適当ではないとして、この提案に反対の姿勢を取っていました。従来の株主提案は、ガバナンスの強化や株主還元の充実といった、より直接的な財務・経営に関するものが主流でしたが、この一件は、企業の社会的な側面、特に安全・衛生という「S」(社会)の領域にも投資家の要求が及んできていることを象徴しています。安全管理体制の不備は、企業価値を毀損するリスクであると、投資家が認識していることの表れだと考えられるでしょう。
広がるESGの波とミレニアル世代の関心
米国では、すでに「政治献金や二酸化炭素(CO2)排出量の開示」など、環境や社会的な課題に関する株主提案が目立つようになってきていると、大和総研の鈴木裕主任研究員は指摘されています。こうした海外の動きが、時差をもって日本にも波及するのは自然な流れでしょう。
日本国内の機関投資家も、この流れに追随しています。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2015年にESGへの配慮を定めた責任投資原則(PRI)に署名し、投資行動に社会的責任の視点を取り入れました。さらに、2019年6月10日には、三井住友トラスト・アセットマネジメントがイギリスの大手生命保険会社であるリーガル&ジェネラルグループと提携を結び、投資先企業とのESGに関する対話を進めるためのノウハウを吸収しようとしています。これは、企業価値の向上には、もはやESGの視点が不可欠であるという認識が、国内の巨大な投資主体にも浸透している証拠だと言えるでしょう。
また、ニッセイアセットマネジメントの藤井智朗共同チーフ・インベストメント・オフィサーは、「ミレニアル世代はESGへの関心が高い」と述べており、若い世代の個人投資家もまた、企業の社会性を重視する傾向にあることが伺えます。ミレニアル世代とは、主に1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代を指し、社会問題への意識が高く、消費や投資の判断に際して企業の倫理観や環境への配慮を重視する傾向があるとされています。彼らが今後、投資市場の主役になっていくことを考えれば、ESGを巡る議論はさらに熱を帯びていくに違いありません。
株主総会は「より広く、より深く」向き合う場へ
インターネット上のSNSでは、安藤ハザマとオアシスの株主提案に関する報道に対し、「株主が安全管理に口を出すのは当然の流れ」「建設業の事故の多さを考えれば、定款に盛り込むのも理解できる」「会社は安全へのコミットメントを公に示すべきだ」といった、企業の社会的責任を求める声や、投資家の提案に理解を示す意見が多く見受けられました。一方で、「定款は経営の基本理念であり、安全管理は細則で対応すべき」「株主のエゴが過剰になっている」といった、提案内容の是非を巡る活発な議論も展開されているようです。
このような事例からも分かるように、株主総会は、単なる業績報告や形式的な承認の場から、企業の企業価値の向上を巡って、経営者と投資家がより広く、そしてより深く向き合う対話の場へと、その性格を変えつつあると言えるでしょう。環境、社会、そして企業統治という多角的な視点から企業を評価するESG投資の進化は、私たち読者が投資家として、また消費者として、企業のあり方を問い直すための重要な羅針盤となるはずです。企業にとっては、従来の利益追求だけでなく、社会との調和を図る真の「良い会社」であることが、持続的な成長への鍵となるでしょう。