印刷事業などを手掛ける広済堂は2019年5月27日、経営の大きな節目となる人事を発表しました。根岸千尋常務(50)が新社長に昇格し、これまで経営を率いてきた土井常由社長(64)は顧問に退くことになります。この人事は、2019年6月27日に開催予定の定時株主総会での承認を経て、正式に決定される見通しです。
今回の社長交代劇の背景には、2019年1月に起きた経営権を巡る混乱がありました。当時、土井社長が中心となり、投資ファンドと組んで「MBO」を目指したのです。MBO(マネジメント・バイアウト)とは、経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を取得する手法を指します。これに対し、「物言う株主」として知られる村上世彰氏らが関わるファンドが待ったをかけました。
村上氏側は、広済堂の事業効率性を高めるべきだとして対抗的な「TOB」を仕掛け、TOB合戦(株式公開買い付け合戦)へと発展しました。TOB(テイクオーバー・ビッド)とは、市場の外で期間や価格を公表し、株主から直接株式を買い集める買収方法です。しかし、最終的には土井社長側も村上氏側も買い付けは不成立に終わっていました。
広済堂は今回の人事について、「コーポレート・ガバナンスを強化するため」と説明しています。コーポレート・ガバナンスとは「企業統治」と訳され、会社が株主や顧客、従業員などのために、健全で透明性の高い経営を行うための仕組みのことです。その一環として、取締役の過半数を社外の視点を持つ役員にするという大胆な人事案も同時に発表されました。
会社側の説明とは裏腹に、このTOB合戦の混乱と不成立という結果を受け、事実上、土井社長が経営責任を取る形になったとの見方が強まっています。SNS上でも「MBO失敗の責任は重い」「これで経営が安定すると良いが」といった厳しい意見や、「新体制でどう立て直すか見ものだ」という声が上がりました。
1991年に学習院大学を卒業し、2009年に広済堂に入社した根岸新社長。主力の印刷事業の構造改革という重い課題を託されることになります。ガバナンス強化と事業再生という二つの大きなミッションを、新体制がどう成し遂げていくのか、その手腕に大きな注目が集まるでしょう。