拝啓、Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)の最高経営責任者(CEO)であるジェフ・ベゾス様へ。2019年6月上旬に米ラスベガスで開催された、アマゾン主催の人工知能(AI)イベント「re:MARS(リ・マーズ)」に参加してまいりました。この祭典は、機械学習、自動化、ロボット、そして宇宙といった最先端の分野が集結し、世界46カ国から数千人もの参加者が熱気に包まれていました。会場には自律走行するロボットが動き回り、ベゾス氏が設立した宇宙開発企業ブルーオリジンの展示もあり、まさに未来を垣間見るような体験でしたね。もちろん、ベゾス様ご自身も登壇され、会場は大きな拍手に包まれました。
しかしながら、このイベントの華やかさとは裏腹に、現在、巨大IT企業群であるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に対する風当たりが強まっています。米司法省や議会は独占禁止法違反の可能性について調査を本格化させており、その市場支配力に対する懸念から、「会社を解体すべき」といった過激な主張まで聞かれる状況です。こうした反GAFAの「大合唱」とも言える状況は、企業活動を抑制し、イノベーションの妨げになるのではないかと私は危惧しております。なぜなら、企業の自由な挑戦を妨げるような施策は、消費者の利益や技術革新の推進にとって、最善の解決策とは言えないと考えるからです。ベゾス様も、この考えには同意してくださるはずでしょう。
私は、この手紙を執筆するにあたり、ベゾス様が株主宛に毎年書き続けてきた「株主への手紙」を読み返しました。そこには、巨大な企業であるがゆえに、大胆なリスクを取って初めて提供できるサービスがある、という信念が綴られています。例えば、参入したスマートフォン事業こそ失敗に終わりましたが、その貴重な教訓を活かした結果、AIスピーカーの成功に繋がりました。また、3,000基を超える人工衛星を使った通信サービス計画のように、豊富な人材と資金力があってこそ実現できるプロジェクトも、枚挙にいとまがありません。re:MARSには、経営者やエンジニアに加え、芸術家、宇宙飛行士、政治家など多岐にわたる人々が集結していました。これは、「発明マシン」として巨大企業を目指すベゾス様の壮大な野心が、強力な求心力となっている証拠ではないでしょうか。
そもそも、現在の産業界において競争が本当に減っているのかといえば、疑問が残ります。産業の勢力図を見れば、革新的な事業アイデアを持つユニコーン企業が次々と台頭し、独自の斬新さを競い合っているのが現状です。しかも、GAFAが提供するクラウドサービスや販売インフラが、むしろ新興企業の成長を下支えする「生態系」を形成しています。また、大手企業への事業売却によって得た資金で、次なる挑戦を続ける連続起業家も存在します。その典型例が、決済ベンチャーの売却で資産を築き、宇宙開発分野でベゾス様の強力なライバルとなったイーロン・マスク氏です。彼のテスラによる電気自動車(EV)の普及も、この流れあってこそでしょう。巨大企業に買収されたとしても、必ずしも起業家の「牙が抜かれる」わけではありません。巨大化そのものが罪ではないのです。
経営者が自身のビジョンを実現するために、規模を追求するのは自然な行為であり、大胆なリスクを取って辿り着いた高い地位は、むしろ称賛に値するものです。規制によって縛られ、凡庸な企業ばかりが群れをなす産業構造こそ、決して望ましいものではありません。もちろん、GAFAが抱える過度な節税対策やプライバシー意識の欠如といった反省点は、真摯に受け止めるべきでしょう。批判には真摯に対応し、高い透明性と公正さを備えた「善きグローバル市民」として振る舞う義務があります。しかし、ただ反省するだけでは物足りないと感じます。今こそ問われているのは、その巨大な力を、社会の大きな課題を解決するために大胆に役立てる行動ではないでしょうか。「成功に安住してはだめだ」というベゾス様のモットー通り、さらなる挑戦を期待し、私はベゾス様に3つの注文をさせていただきます。
注文1:小売りの枠を超えた「自動化王」への進化
まず1点目は、小売事業で培ってきた自動化技術の、思い切った応用をお願いいたします。アマゾンの倉庫では、数多くの物体を効率的に処理するロボットが稼働し、AIによる需要予測の精度も日々向上しています。さらに、レジなしコンビニでは、人の動きを詳細に把握する技術が活用されています。これほど高度な技術を小売りに限定するのは、あまりにも惜しいでしょう。食糧供給、エネルギー管理、交通インフラなど、世の中には無駄のない物や人の流れ、そして緻密な需給管理が求められる領域が数多く存在します。小売りの枠組みを超え、人類が抱える根本的な課題を解決するような、革新的な事業モデルを構築できないでしょうか。
アマゾンの物流施設では、すでに10万台以上のロボットが稼働し、それらを制御する専門職も誕生しているそうです。これは、自動化を進めながらも雇用を両立させるという、現代の企業が直面する悩みを解決するための貴重なノウハウとなるはずです。「通販王」としてではなく、「自動化王」として人々がベゾス様を記憶するような、大胆な行動を期待しております。
注文2:サステナブルな消費文化の醸成
2点目は、持続可能性(サステナビリティ)を考慮した消費文化の醸成に対するリーダーシップです。ベゾス様はre:MARSの場で、「安く、配達が速く、品ぞろえが多い。このニーズは不変だ」と語られました。ワンクリック購入からドローンによる超高速宅配に至るまで、ストレスフリーな購買体験は確かに魅力的です。しかし、そこには20世紀型の大量販売・大量消費を連想させる側面も否めません。現在の若い世代からは、量よりも質、所有よりも利用を重視する新たな価値観が生まれています。1億人を超える有料会員を擁するアマゾンだからこそ、この新しい潮流を牽引し、持続可能な社会の実現に向けた、世界的なリーダーシップを発揮できるのではないでしょうか。
注文3:ベゾス様自身の「物語」の発信
そして3点目、ベゾス様ご自身の物語を、もっと世の中に語っていただきたいのです。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏やアップルのスティーブ・ジョブズ氏は、必ずしも「円満」とは言えない個性でさえ隠すことなく世間に示し、その時代の、そして業界のアイコンとなりました。彼らが多くの起業家を刺激し、イノベーションのバトンをつないだ功績は、計り知れません。ベゾス様の甲高く豪快な笑い声は有名ですが、一方で「目が笑っていない」「ミステリアス」などと言われることもあります。しかし、ベゾス様が、先輩経営者2人に匹敵する存在としてビジネス史に名を残す有力候補であることは間違いありません。自らの「思い」を率直に語り、人々を新たな事業へと駆り立てる力は、最高の競争促進策となります。
かつてベゾス少年がSF作品『スタートレック』に魅了されたことが、AI製品などに結実したように、現代の少年少女にとって、ロボットやデータを自在に操るベゾス様ご自身こそが、最もSF的で興味の対象となりうるでしょう。そこで、起業家予備軍である彼らのために、ご自身の半生を綴った本を出版されてはいかがでしょうか。社内会議でパワーポイントではなく、6ページにまとめたメモの利用を奨励するベゾス様であれば、多忙なCEOの職務の合間にも執筆が可能でしょう。本の販売はアマゾンの原点であり、需要予測も容易に違いないと存じます。私もぜひ購入したいと思っております。前向きにご検討いただけますよう、敬具。