2019年6月19日、日本の巨大電機メーカーである日立製作所が、オランダの自動車部品会社であるシャシー・ブレーキ・インターナショナル(Chassis Brakes International)を買収すると発表しました。買収額はシャシー社の全株式を約6億9000万ユーロ、日本円にしておよそ830億円で取得することで、同社の株主であるアメリカの投資ファンド、KPSキャピタルパートナーズと基本合意に達したということです。この大胆な一手は、自動車産業の未来を大きく変えるトレンドである「CASE」戦略を強力に推進し、特に電動化分野での事業を立て直すという、日立の強い決意を示しているといえるでしょう。
ここでいう「CASE(ケース)」とは、自動車業界で今注目されている四つの技術領域の頭文字を取ったもので、「Connected(コネクテッド=繋がる)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Service(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」を指します。日立は、この次世代技術を取り込むことで、今後の自動車部品事業における競争力を高めようとしているのです。具体的には、子会社である日立オートモティブシステムズを通じて買収を進め、2019年7月末までにシャシー社の労働組合や関係各国政府からの認可を取得し、年内の買収完了を目指す計画です。
シャシー・ブレーキ・インターナショナル社は、自動車にとって非常に重要な部品である電動パーキングブレーキ(EPB)を主力製品として手掛けている専門メーカーです。EPBとは、従来のレバーやペダルで操作する機械式パーキングブレーキとは異なり、スイッチ操作で電気的に作動・解除を行うシステムのことです。特にスペース効率や運転支援システムとの連携のしやすさから、電気自動車(EV)を含む次世代車での採用が急速に拡大しています。同社は欧米や中国の大手自動車メーカーを主要な納入先とし、アメリカ、中国、インド、フランスなど世界12カ所に工場を持ち、約5500人の従業員を抱えるグローバル企業なのです。
シャシー社の2018年12月期における売上高は9億3700万ユーロ(約1100億円)、そしてEBITDA(イービットディーエー:利払い・税引き・償却前利益)は約100億円程度の見込みでした。この買収により、日立オートモティブシステムズは、これまで開発が遅れていた電動パーキングブレーキの幅広い製品ラインナップを一気に手に入れ、既存のグローバルな販路を拡大することが可能となるでしょう。日立オートモティブの2019年3月期の売上高は9710億円でしたが、売上高営業利益率は3.9%と、親会社である日立製作所が目指す収益水準には達していませんでした。
日立製作所は、連結ベースでの営業利益率を2021年度末までに10%以上に高めるという明確な目標を掲げており、その達成に向けて日立オートモティブシステムズでは、収益力の低い製品や事業の整理・再編を進めている状況です。その一方で、今回のシャシー社買収のように、CASEのような成長が期待できる次世代技術には積極的に投資する方針を打ち出しているのです。この買収は、日立グループが経営資源を集中し、高収益体質へと転換を図るための戦略的な一歩だと強く感じられます。
このニュースが報じられると、SNSなどでは日立の決断に対する多くの反響が見られました。特に「日立がまた大きな一歩を踏み出した」「CASE戦略で本気を出してきたな」といった期待の声や、「EVシフトを見据えた先行投資としては非常に理にかなっている」といった、今後の成長を評価する意見が目立っています。自動車の電動化の流れは不可逆的であり、この分野での技術と販路を獲得することは、日立の未来の競争力を大きく左右すると考えられるため、今回の買収は極めて重要であると判断できます。
日立の自動車部品事業再編と今後の展望
自動車産業は今、100年に一度といわれる変革期にあり、日立のような大手企業が生き残るためには、伝統的な事業領域に固執せず、未来のトレンドに合わせて迅速にポートフォリオを組み替えることが不可欠です。今回のシャシー社買収は、まさに日立がこの変革の波に乗ろうとしている証であり、電動化という核となる分野での弱点を埋め、強靭な事業基盤を構築しようという強い意志が感じられます。今後、日立オートモティブシステムズがシャシー社の技術やグローバルネットワークをいかに迅速に統合し、相乗効果(シナジー)を発揮させるのか、その動向に注目していく必要があるでしょう。