金融機関の預貸金(よたいきん)管理や、工場の生産ライン、あるいは店舗の運営に関わるシステム開発を請け負うITサービス企業にとって、収益性の高さは世界的な競争を勝ち抜くための重要な指標と言えるでしょう。この収益性を測る一つの物差しが、売上高営業利益率という、システム開発にかかった費用に対する利益の割合を示す指標です。しかし、2019年6月21日時点で判明している業績を見る限り、NTTデータや富士通といった日本の大手IT企業の営業利益率は、海外の競合他社の半分程度に留まっており、大きな課題として立ちふさがっています。
こうした収益力の格差が生まれる背景には、システム開発のスタイルの違いが深く関わっています。この差を埋め、日本のITサービス業界が再び成長軌道に乗るための鍵となるのが、「標準化された開発」、すなわち、あらかじめ作られたパッケージや基盤を最大限に活用する開発手法への転換です。これが実現できれば、開発の効率は飛躍的に向上し、結果として収益性が改善され、業績の「ブレ」も小さくなっていくことが期待できるでしょう。
日本のITサービス業界の現状と海外勢との決定的な差
日本のITサービス大手と海外勢の間で、収益力の格差が鮮明になっています。2019年3月期のデータを見ると、NTTデータの売上高営業利益率は7%、富士通は3%という水準でした。これに対し、米IBM(2018年12月期)は16%、米アクセンチュア(2018年8月期)は14%と、海外勢は軒並み二桁台の高い利益率を達成しています。この低い利益率は、大手企業だけでなく、日本のITサービス業界全体が抱える共通の課題なのです。
QUICK・ファクトセットのデータに基づき、5年間継続して比較可能な世界のITサービス約800社を集計したところ、2018年度の日本企業の利益率は平均6%でした。これは、米国企業の11%や欧州企業の10%と比べると、およそ半分の水準です。この大きな差は、主にコスト管理力の違いから生じていると考えられています。NTTデータや富士通、NECなどの国内企業は、官公庁などからオーダーメード型の大規模システム開発を請け負う機会が多くあります。
しかし、こうした受注では、プロジェクトの途中で仕様が変更されたり、予期せぬ問題が発生したりすることが少なくありません。その結果、想定外の追加コストが発生し、損失を計上してしまう事例も散見されるのです。実際、NTTデータでは2019年3月期、公共向けのシステム開発において採算割れ案件を抱え、169億円の損失を計上し、連結営業利益をおよそ1割押し下げる事態となりました。これは、難易度の高い大型案件に挑んだ結果、品質問題が生じたためだと、当時の本間洋社長も決算説明会で厳しい表情で言及していました。
「標準化」がもたらす安定と効率化のメリット
一方、海外では、システム開発において標準化されたシステムの利用が主流となっています。「あらかじめ作られたシステムに、お客様の業務を合わせていただくのが一般的」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の田中秀明氏は指摘されています。お客様にとっては、使い勝手に多少の制約が生じる場合もありますが、安価で納期が短いという大きな利点があるため、広く受け入れられているのです。
標準化システムを中心とした開発は、開発工程の遅延リスクを大幅に軽減する効果があります。プロジェクトの損失リスクを抑えるだけでなく、開発の進捗に応じて計上される四半期ごとの売上高の変動、すなわち「ブレ」も小さくなります。実際、2018年度の四半期ごとの売上高を基に、平均値からのブレの度合いを示す「変動係数」を算出したところ、日本と海外で大きな違いが確認されました。
日本企業の変動係数は、NECの13%を筆頭に一桁台後半が多い中、米国のIBMは6%、アクセンチュアは4%と、海外勢はブレが小さい傾向にあります。インドのインフォシスといった企業も同様です。一般に、この売上高のブレが小さいほど、営業利益率が高い傾向が見られます。これは、売上が安定することで、不必要な人員を抱えるリスクがなくなり、結果的に開発効率が向上するからでしょう。
デジタル技術の融合で加速する海外勢の攻勢
海外勢は、この標準化されたシステムを基盤としつつも、さらに一歩進んだ戦略で攻勢をかけています。彼らは、デジタル技術を積極的に付加することで、お客様への提案力を高めているのです。たとえば、アクセンチュアは2013年にデジタルに特化した事業部門を立ち上げ、大きな成果を上げています。
具体的な事例として、独BMWに対する新たな自動車販売手法の提案が挙げられます。これは、拡張現実(AR、Augmented Reality:現実世界にデジタル情報を重ねて表示する技術)を取り入れ、スマートフォンなどを使って、まるで実物が目の前にあるかのように自動車を体感できるシステムです。この試作版は、わずか3ヶ月という短期間でテスト運用にこぎ着けたと伝えられています。
【編集者としての意見】私が思うに、日本企業がオーダーメードにこだわるのは、お客様の要望にきめ細かく応えたいという日本的な「おもてなし」の精神や、既存の複雑な業務を変えたくないという事情が絡み合っているからでしょう。しかし、国際競争において生き残るためには、非効率な慣習を脱ぎ捨て、海外勢のように「標準化」と「デジタル活用」という二つの課題を克服することが不可欠だと考えられます。
NTTデータが進める「標準化」と「デジタル人材育成」
この標準化とデジタル活用という重要な課題に、NTTデータも本格的に取り組んでいます。国内・海外のシステム開発環境を、標準化しやすいクラウド上に集約する動きを進めているほか、お客様が共通で利用できるシステム提供に注力しています。すでに地方銀行向けに提供している「地銀共同センター」に続き、今後は電子商取引(EC)や情報銀行(個人の情報を管理・運用し、本人の同意のもとで企業などに提供するサービス)向けなどの共通システム基盤を拡充していく方針です。
また、デジタル分野での強化策として、2019年5月には人工知能(AI)の人材育成組織を立ち上げました。これは、2022年3月期までに5000人のデジタル人材を育成するという、高い目標を掲げたものです。この取り組みは、日本のIT業界全体に活力を与える起爆剤となる可能性を秘めていると私は期待しています。ただし、NTTデータが2022年3月期に掲げた営業利益率の目標は8%であり、海外勢の二桁台に肩を並べるには、まだもう少しの時間と努力が必要であると見込まれるでしょう。