2019年6月21日、日本を代表する自動車部品メーカーの未来に、深刻な暗雲が立ち込めている状況が明らかになりました。日本自動車部品工業会(部工会)がまとめた2019年度の業績見通しによると、調査対象企業の約4割が、売上高と利益の両方が前年度を下回る「減収減益」という厳しい予想を提示しているのです。具体的には、日本会計基準を適用している企業のうち、減収減益を見込む割合は40.7%に上り、これは前年度見通しである24.2%から大幅に増加しています。部工会の上場会員企業を対象としたこの調査結果は、これまで右肩上がりの成長を続けてきた日本の部品サプライヤーを取り巻く環境が、大きな転換期を迎えたことを示していると認識すべきでしょう。
この厳しい見通しの背景には、国際的な不透明要因が大きく影響しています。特に、世界経済の成長の足かせとなっている米中貿易摩擦、そして英国の欧州連合(EU)離脱問題といった地政学的なリスクの余波が、日本の部品メーカーの収益を直撃しているのです。さらに、自動車業界で「100年に一度の変革期」とも称される「CASE」への対応も、収益面での重荷となっています。CASEとは、Connected(コネクテッド:インターネット接続)、Autonomous(オートノマス:自動運転)、Shared/Service(シェアード/サービス:カーシェアリングなどの利用)、Electric(エレクトリック:電動化)の頭文字をとった言葉で、これら次世代技術への対応のための巨額な先行投資(研究開発費や設備投資)が、目先の利益を圧迫している状況です。小糸製作所が、次世代センサーである**LiDAR(ライダー:Light Detection and Rangingの略で、レーザー光で周囲の物体との距離や形状を正確に測る技術)**を搭載した自動車ランプの開発に、前年度比1割増の370億円を投じるなど、技術開発競争の激化は明らかです。
もちろん、全ての企業が悲観的な予想をしているわけではありません。「増収増益」を予想する企業も32.2%あり、中国市場の減速はあるものの、他の地域での需要は底堅く推移しているとの見方もあります。しかし、この割合は前年度見通しの45.2%から減少しており、業界全体の慎重姿勢を裏付けています。部工会の岡野教忠会長(リケン会長)は、「リーマン・ショックから回復し、右肩上がりだった局面が変わった」と危機感を表明しました。2019年度の営業利益見通しの合計を見ると、日本会計基準適用企業(59社)は前年度比4.3%減の7,274億円でしたが、国際会計基準適用企業(12社)では12.3%増の7,706億円と、会計基準や事業構造によって見通しにばらつきが見られます。
巨大化するメガサプライヤーとIT勢力との競争激化
日本勢が直面している課題は、通商問題や国内の消費税引き上げ(将来的な収益押上げ効果はあるものの、当面の景気への影響は不透明)だけではありません。自動車業界の構図そのものが変化しつつあります。独ボッシュ、コンチネンタル、ZFといった欧州の巨大な部品メーカー(メガサプライヤー)は、積極的なM&A(合併・買収)を通じて企業規模を拡大し、CASE技術への取り組みを強化しています。さらに、米アルファベットのウェイモなどの巨大IT企業も自動運転技術開発で台頭し、自動車部品業界に異業種からの参入が相次いでいるのです。これにより、従来の**ティア1(Tier 1:自動車メーカーに直接部品を供給する一次サプライヤー)やティア2(Tier 2:ティア1に部品を供給する二次サプライヤー)**といった部品メーカーと、完成車メーカーとの間の力関係にも変化が生じる可能性があります。
私見として、日本の部品サプライヤーは今、この厳しい環境を「技術革新と事業再編を断行する好機」と捉えるべきだと強く考えます。部工会は今年で創立50周年を迎え、国内での部品出荷額は20兆円を超え、世界52カ国2,000カ所以上の工場で100万人超の雇用を生み出している、まごうことなき巨大産業です。しかし、過去の成功体験に囚われ、CASE対応やメガサプライヤーとの競争で後れを取れば、その地位は危うくなるでしょう。この正念場で、日本勢が培ってきた高い技術力と品質を武器に、大胆な技術開発投資と国際的な事業再編を進め、新しい時代でも存在感を発揮できるかに、日本のものづくりの未来がかかっていると言えるでしょう。
SNS上でも、この報道に対しては「日本の部品メーカーの技術力はまだ高いが、体力勝負のCASE投資とメガサプライヤー化の波についていけるか心配だ」「米中摩擦の影響がこれほど出ているとは」といった、日本の技術力への期待と、国際環境や投資負担への懸念を示す声が多く見られます。短期決戦が待ち受ける中、日本の部品メーカーがどのような戦略でこの難局を乗り越えるのか、今後も注目していく必要があります。