東京五輪の新設施設、大会後の赤字リスクを徹底検証!レガシーか負の遺産か、運営のカギは住民活用にあり

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2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて、東京都は約1,375億円もの巨費を投じ、合計6つの新しい競技施設を整備しています。これらの施設は、大会後も「レガシー(遺産)」として長く活用されることが期待されていますが、その維持管理にかかる費用負担の重さが大きな課題として浮かび上がっています。大会後に採算が合う、つまり黒字が見込まれるのはわずか1施設のみで、残念ながら残りの5施設については、合わせると年間で約11億円もの赤字が発生する見通しだという厳しい試算が出ているのです。

こうした状況を鑑みると、多額の税金で造られた新施設が、将来的に「負の遺産」と批判されないためには、いかに地元の住民をはじめとする多くの方々に広く活用されるかが、その成否を分ける重要な鍵となるでしょう。都は「自治体のスポーツ施設は収益ではなく住民へのサービスが目的」と述べていますが、ただ安価に提供するだけでなく、いかに魅力的な利用機会を創出できるかが問われています。

アクセスと維持費が重荷となる水上・カヌー施設

例えば、東京臨海部の埋立地に完成したボート・カヌー競技の会場「海の森水上競技場」を見てみましょう。既存の運河を全長2キロメートル、幅200メートルの国際規格コースとして活用し、建設費は当初の約1,000億円から圧縮されたとはいえ、308億円を投じて整備されました。2019年6月16日には、小池百合子都知事ら約400人が集まり完成披露式典が開催され、関係者からは「広く使えるコースで、大会もスムーズに運営できる」と期待の声が上がっています。

しかし、この施設には、車以外の交通手段でのアクセスが困難という地理的な難点があります。さらに、水門の管理といったコストが重くのしかかり、大会後には年間約1億6,000万円の赤字が試算されています。また、東京大会の会場となった戸田漕艇場(埼玉県戸田市)など、首都圏には既存のボート施設も存在するため、利用者をいかに惹きつけるかが課題となりそうです。

また、葛西臨海公園(東京・江戸川区)の隣地に、73億円をかけて整備された「カヌー・スラロームセンター」は、2019年7月から利用が開始される予定です。これは全長200メートルに及ぶ国内で初めての人工コースで、毎秒12トンもの大量の水を大型ポンプで約4.5メートルの高さまで汲み上げ、カヌー・スラローム競技に必須の激しい急流を人工的に作り出す仕組みを採用しています。スラロームとは、川の流れに沿って設置されたゲートを通過しながら下っていく、カヌー競技の一種です。

大会後には、ラフティング体験ができるレクリエーション施設としても活用される計画ですが、年間収入は1億6,400万円にとどまり、約1億9,000万円の赤字が予測されています。施設が持つ独自の魅力を、いかに一般利用者の集客につなげられるか、斬新なアイデアが求められるでしょう。

巨額の維持管理費がのしかかる主要施設

整備費が567億円と、新施設の中で最も高額となった競泳会場「東京アクアティクスセンター」(江東区)は、2020年2月に完成が予定されています。大会後も「競泳ワールドカップ」や「アジア水泳選手権」といった国際大会を誘致し、年間100万人の来場者を見込んでいるのです。それにもかかわらず、設備の保守業務委託費や高熱水費などのランニングコストが膨大になるため、年間で約6億4,000万円という巨額の赤字が発生すると試算されています。

このほか、2019年4月に完成した「夢の島公園アーチェリー場」(江東区)は年間1,170万円、2019年6月に完成予定の「大井ホッケー競技場」(品川区・大田区)は年間9,200万円の赤字が見込まれています。これらの施設も、大会後の利用促進策を早期に確立することが不可欠です。

黒字化を見込む「有明アリーナ」と運営の課題

唯一、収益が見込まれているのが、バレーボール会場として2019年12月に完成が予定されている「有明アリーナ」(江東区)です。この施設は、スポーツ大会だけでなく、収益性の高いコンサート会場などにも柔軟に利用できる設計になっていることから、年間3億5,600万円の黒字が見込まれています。しかし、東京都には大規模なコンサート運営などのノウハウが十分ではないため、民間企業へ運営権を25年間94億円で売却するという判断に至りました。

これは、施設建設の主体と運営の主体を分けることで、効率的な経営を目指すという合理的な選択と言えるでしょう。一方で、公共性の高いスポーツ施設を民間が運営することで、住民サービスの維持と収益性のバランスをどのように取るのかという点も注目されます。

東京五輪の「レガシー」を「負の遺産」にしないために

国士舘大学の鈴木知幸客員教授(スポーツ政策)は、過去の五輪開催都市であるロンドンやリオデジャネイロでも、大会後に会場施設の維持管理に苦労している実情を指摘しています。その上で、「多額の費用をかけてでも施設を維持したいならば、その意義について都民らの理解を得る努力が必要だ」と提言されています。都民が納得できるような、施設維持の明確な目的と意義を示すことが求められているのです。

私見ではありますが、これらの施設を単なる「競技場」としてのみ捉えるのではなく、住民の健康増進や文化活動、地域経済の活性化に貢献する「地域社会のハブ」として再定義することが重要だと考えます。例えば、平日の昼間など、競技利用が少ない時間帯に、地域のサークル活動や企業の研修、さらにはユニークなイベントスペースとして積極的に貸し出すなど、多様なニーズに応える柔軟な運営こそが、赤字リスクを軽減し、真の「五輪レガシー」として未来に残すための唯一の道ではないでしょうか。

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