二〇一九年五月28日、日本の「ものづくりの聖地」である福井県鯖江市から、非常にスマートなニュースが飛び込んできました。折り畳むとわずか「薄さ2ミリ」という驚異的な老眼鏡「ペーパーグラス」を製造・販売する西村プレシジョンが、二〇一九年六月三日、東京・港区の品川プリンスホテルに新たな直営店を開設するというのです。
この出店戦略は、非常に巧みであると私は分析しています。東京での第一号店は、日本の「伝統と格式」の象徴である帝国ホテル内でした。それに対し、第二号店に選んだ「品川プリンスホテル」は、日本有数の交通のハブであり、ビジネスと多様な人々が行き交う「現代の玄関口」です。この明確な対比こそが、帝国ホテルとは異なる新しい客層を開拓するという、同社の強い意志の表れでしょう。
「ペーパーグラス」の革新性は、単に薄いことではありません。累計六万本という販売実績が示す通り、それは「老眼鏡」という言葉が持つネガティブなイメージを根底から覆した点にあります。SNS上でも「これなら胸ポケットに入れても全く邪魔にならない」「老眼鏡というより、知的なガジェットだ」「鯖江の技術力の結晶」といった、そのデザイン性と機能性への称賛の声が溢れています。
私自身、これは「携帯する」という新しい価値を「見る」体験に加えた、デザインの勝利だと感じています。新店舗では、従来の高級ラインに加え、比較的低価格な商品の品揃えにも力を入れるとのこと。これは、より多くの人々に鯖江の卓越した技術を届けようとする「裾野を広げる戦略」に他なりません。日本のものづくりの誇りが、この薄いレンズの向こうに輝いて見えます。