「Amazonは政府の何でも屋になるつもりか」。そんな懸念が世界を駆け巡ったのは、2019年5月29日のことでした。米連邦政府が年間500億ドル(当時のレートで約5兆5000億円)もの巨費を投じる物品調達。そのルールを定めた法律に、ひっそりと、しかし極めて重大な修正が加えられたのです。通称「Amazon修正」。これにより、政府機関はあらゆる調達において電子商取引(EC)の導入を義務付けられました。これは事実上、Amazonへの巨大な招待状とも言えるでしょう。
この動きに猛反発したのが、米国の卸売業界です。彼らは、Amazonが小売市場を席巻したように、自分たちの領域である「BtoB(企業間取引)」、それも政府相手の商売までも奪うのではないかと恐れおののきました。SNS上でも当時、「GAFAの独占がここまで及ぶのか」「税金が特定企業に流れるのは危険だ」といった警戒の声が上がる一方で、「役所の調達がAmazonみたいに楽になればいいのに」という利便性を歓迎する意見も散見されました。
問題の核心は、政府が「マーケットプレイス型」のシステムを優遇しようとしている点にあります。これはAmazonのように、プラットフォーム提供者が場所を貸し、そこで多くの業者が売る仕組みです。しかし、ここには「データマイニング」という罠が潜んでいます。Amazonが他社の販売データを分析し、売れ筋商品を特定して、自社のプライベートブランド(PB)商品で安く対抗する――そんな不公正な競争が行われるリスクが指摘されているのです。
さらに皮肉なデータもあります。米海軍大学院大学の2017年の研究によれば、既存の政府調達システムの方が、Amazonよりも8割の確率で安かったというのです。それにも関わらず、現場の購買担当者は「使い勝手が良い」という理由でAmazonを好む傾向にあります。透明性やコスト削減よりも、個人の買い物と同じような「楽さ」が優先されようとしている現実は、納税者として見過ごせない問題ではないでしょうか。
私はコラムニストとして、この問題は単なる商戦以上の意味を持つと考えます。Amazonは強力なロビー活動を展開し、ルールの変更さえ画策しました。しかし、政府の調達は個人の買い物とは違います。そこには公平性と透明性が不可欠です。「便利だから」という理由だけで、巨大企業に公的資金の蛇口を握らせて良いのか。それは社会全体にとって「見えない損失」になりかねません。効率化の名の下に進む独占に、私たちはもっと厳格な目を向ける必要があるでしょう。