世界的な産業機械部品メーカーである日本精工が、自動車向けの軸受け(ベアリング)工場で驚異的な生産革新を成し遂げています。特に、あらゆるモノがインターネットにつながる技術であるIoT(Internet of Things)を導入し、製造ラインの徹底的な自動化を推進しているのです。これは、かつて生産拠点を移していた海外工場を上回るコスト競争力を実現するための戦略的な一手であり、同時に、急速に進む次世代の自動車、いわゆる次世代カーの波に備えるための新たな発想に基づいた技術の底上げを目指しているものと見受けられます。
この生産改善の手法は、群馬県高崎市にある高崎工場と榛名工場という、二つの拠点においてそれぞれの役割と視点から導入されています。高崎工場では、自動車エンジンの吸気バルブに使用される「ロッカーアーム」向けのベアリング、特に摩擦を低減する効果が高いニードルベアリングの生産を担っています。このニードルベアリングの採用は、エンジンの低燃費化に直結するため需要が非常に高まっている状況です。この製品は2016年に中国からの国内回帰を果たしたもので、競争力を維持するためには「人件費が安い中国での生産に対抗できる生産コストが不可欠」と、梅山伸一工場長は語っていらっしゃいます。
高崎工場の生産ラインでは、最終の組み立て工程でわずかに作業者を見かける程度で、ベアリングが流れるように加工されている様子はまさに圧巻です。この徹底した自動化は、これまで人手を要していた部材運搬や表面処理といった個々の工程をインターネット技術で「連結」し、**シームレス(継ぎ目のない状態)**にしたことで実現しました。具体的には、表面処理加工に使う砥石の改良や、外観検査、計数、そして包装に至るまでを自動化し、さらにIoT技術によって加工状態を「見える化」しています。その結果、高崎工場では、中国で同じ数量を生産するのに96人を要していた人員を、48人と半減することに成功したのです。
このニュースは2019年6月28日に公開されましたが、X(旧Twitter)などのSNS上では、「自動化で人員半減とはすごい」「日本の製造業の底力を見た」「国内回帰で生産性を上げるのは理想的だ」といった驚きと称賛の声が多数寄せられています。人件費の安い海外に生産拠点を移すのではなく、高い技術力と創意工夫によって生産性を向上させ、国内でコスト競争力を実現するこの動きは、日本の製造業が抱える人手不足という大きな課題に対する一つの有効な回答を示していると言えるでしょう。
開発と生産の一体化で次世代カー時代に対応する榛名工場
一方、榛名工場では、2018年12月に稼働をスタートした新棟である3号棟で、AT(自動変速機)向けの「スラストニードルベアリング」を生産しています。ATの多段化や中国を中心とした需要増加を受けて生産能力を1割引き上げる見込みですが、その真の狙いは単なる増産だけではありません。3号棟では生産エリアと設計エリアを同居させ、電気自動車(EV)などの自動車の電動化を見据えた体制を構築しています。担当者は「電動化の関連部品の開発はこれまでと比べて30%ぐらいのスピードアップが求められる」と危機感をあらわにし、開発と生産を一体にすることで迅速な仕組みを整える必要性を感じているのです。
すでに試作品の納期短縮にも着手しており、開発エリアには最新の工作機械が揃い、夜間に無人運転が可能な機械も導入して生産性を高めています。また、製品の元となる金型についても半加工品を在庫しておくことで加工工数を減らすなど、徹底した合理化を進めています。特に、試作工程のライン化に取り組み、工程上のボトルネック(流れを滞らせる要因)となっていた試作金型の製作期間を3分の1に短縮することに成功したとのことです。
さらに、3号棟では、職務スペースにも先進的な工夫が施されており、まるでスタートアップ企業のような環境です。会議室の壁を全面ホワイトボードにしたり、部屋の色調を単色に揃えたりと、視覚的な刺激やアイデアを出しやすい空間づくりを意識されています。休憩室もカフェのような雰囲気で、職務スペースの一部をフリーアドレス(固定席を持たない働き方)とするなど、従来の「ものづくり」の現場にこだわりすぎず、従業員の創造性を高める環境を作り出していることが分かります。実際に「生産性が上がっていると実感する」という声が聞こえており、環境づくりが革新に繋がることを証明していると言えるでしょう。
ニードルベアリングは半世紀以上にわたって製造されてきた歴史があり、両工場は生産ノウハウを磨き上げ、国内シェアでトップの地位を築いてきました。しかし、外部環境が激変する中で、技術革新の手を緩めない姿勢は、グローバル市場で競争を勝ち抜くために不可欠です。私見ではありますが、日本精工のこの取り組みは、単なるコスト削減に留まらず、IoTや開発一体化といった**デジタルトランスフォーメーション(DX)**の波を捉え、技術的な強みを軸に変革を続けるという、製造業の未来を示す好循環を生み出すものだと確信しております。