2019年5月下旬、東京・銀座にある日本現存最古のビヤホール「ビヤホールライオン銀座七丁目店」にて、ある特別なイベントが開催されました。サッポロビールが展開する共創プロジェクト「ホッピンガレージ」の一環として、記者が自ら企画したオリジナルクラフトビール「MJ PILS」のお披露目会が行われたのです。会場にはSNSなどを通じて集まった、筋金入りのビール愛好家約50名が結集し、熱気に包まれました。
この「ホッピンガレージ」という言葉、耳慣れない方もいらっしゃるかもしれません。これは、一般消費者やクリエイターが「こんなビールがあったらいいな」というアイデアを出し、サッポロビールの醸造技術と掛け合わせて、商品企画からラベルデザイン、そして今回のような発表会までを模擬体験できるという、夢のようなプロジェクトです。今回は、その仕組みを利用して生まれた一杯が主役となりました。
開発の苦労と、ビール好きを唸らせた「公開インタビュー」
イベントの構成について、主催者である記者は当日ギリギリまで頭を悩ませたといいます。単なる試飲会にするのではなく、より深くビールの魅力を伝えるために選ばれた形式は「公開インタビュー」でした。サッポロビールの成瀬史子氏と土代裕也氏をゲストに招き、ホッピンガレージの企画意図や、醸造の裏側にあるこだわりについて深掘りするトークセッションが繰り広げられたのです。
実際に会場に足を運んだ参加者たちは、わざわざこの日のために集まったビール通ばかり。そのため、提供された「MJ PILS」に対する反応も非常に好意的でした。参加していた38歳の会社員女性は、「ビールの味が特徴的で美味しかったのはもちろん、多方面から開発秘話を聞けて充実した時間だった」と、満足げな表情で語っています。SNS上でも、こうした体験型イベントへの評価は高く、単に「飲む」だけでなく「知る・共有する」ことへの需要の高まりを感じさせます。
過去の事例から見る、イベントの多様性
実は、このプロジェクトによるイベントは今回が初めてではありません。記者は本イベントに先立ち、2019年1月に東京・上野で開催された別の企画にも潜入していました。それは、会社員の森本夏実さんが企画した「佐世保スイングエール」のお披露目会です。森本さんが長崎県佐世保市のバーで出会ったウイスキーのイメージをビールに落とし込んだという意欲作でした。
その際の演出は今回とは対照的で、ビールのコンセプトに合わせてジャズバンドによる生演奏が行われるなど、企画者の個性が色濃く反映された空間作りがなされていました。このように、企画者の想いやストーリーに合わせて、全く異なる世界観を構築できる点も、ホッピンガレージというプラットフォームの大きな魅力と言えるでしょう。
編集後記:マーケティングの新たな可能性と課題
今回の「MJ PILS」ですが、残念ながら現時点では商品化の予定はないとのことです。しかし、イベントでの反応を見る限り、若者層よりも、むしろ新聞や活字に親しむような年齢層の高いビールファンに強く響いていた印象を受けました。サッポロビールの土代氏も「記事風のラベルデザインを活かしてコラムを展開すれば、販促での差別化ができる」と語っており、ターゲット層に合わせたアプローチの重要性が浮き彫りになりました。
私自身、メディアの編集者として強く感じるのは、これからの時代は「モノ」そのものの良さだけでなく、その背景にある「ストーリー」こそが消費者の心を動かすということです。たとえ醸造やイベント運営に不慣れであっても、サッポロビールやキッチハイクといったプロのサポートを得て形にすることで、熱量の高いファンコミュニティが生まれます。まだマーケティングには改善の余地があるかもしれませんが、この「共創」のスタイルこそが、成熟したビール市場に新たな風穴を開ける鍵になるのではないでしょうか。