長野県諏訪地域。かつては時計産業で名を馳せ、「東洋のスイス」とも称されるこのものづくりの聖地から、2019年5月28日、胸を熱くさせるニュースが届きました。地元の企業と信州大学などが手を取り合う「SUWA小型ロケットプロジェクト」が、あの宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携し、ついに「音速」を超えるロケット開発に挑むというのです。これは、地方の町工場が抱く夢が、現実の宇宙開発へと繋がる大きな一歩です。
このプロジェクトは、2019年度を最終年度とする5年計画の集大成として位置づけられています。これまで打ち上げたロケットは音速の0.8倍程度までの到達でしたが、今回はついに「マッハ1(音速)」の壁突破を目指します。そのために、2019年7月にはJAXA宇宙科学研究所(相模原市)にある特別な実験施設へと乗り込むことが決まりました。
JAXAの「風洞設備」で挑む極限の世界
JAXAで借りることになったのは、「高速気流総合実験設備(風洞設備)」と呼ばれる装置です。これは、人工的に猛烈な風を発生させ、飛行中の環境を地上で再現する巨大なトンネルのような施設です。JAXAの装置は音速の4倍もの速さまで再現可能という世界屈指の性能を誇ります。大学や企業の設備では検証しきれなかった「超音速の世界」を、ついに体験できるわけです。
音速を超えると、空気は単なる風ではなく、コンクリートの壁のように機体に襲いかかります。そこで開発のカギを握るのが、ロケットの最先端部分である「ノーズコーン」です。今回は、熱や衝撃に強い「ベークライト」という軽量樹脂や、チタン、アルミニウムといった金属素材を使って3種類ほどのモデルを作成し、どの形状と素材が最適か徹底的にテストする予定です。
SNSでの反響とコラムニストの視点
この発表に対し、SNS上では「まるでリアル『下町ロケット』の世界だ!」「諏訪の精密技術なら絶対に成功するはず」「男のロマンが詰まってる」といった、興奮と応援の声が続々と上がっています。ドラマの世界だけでなく、現実の日本の地方都市でこうした熱い挑戦が行われていることに、多くの人が勇気をもらっているようです。
しかし、私が何より素晴らしいと感じるのは、この計画の真の目的が「ロケットを飛ばすこと」そのものではなく、「技術者を育てること」にある点です。ダイヤ精機製作所や野村ユニソンといった参加企業のエンジニアたちが、極限環境に耐える部品作りを通じて得たノウハウは、必ずや本業の自動車部品や精密機器製造にフィードバックされるでしょう。
開発が順調に進めば、2020年3月には大空へ向けて打ち上げられる予定です。機体の直径を従来の10センチから1.6倍に大型化し、エンジンの推力も数倍に高めた「諏訪モデル」が、信州の空を切り裂いて音速の壁を突破する瞬間を、固唾を呑んで見守りたいと思います。