私たちの食卓に並ぶ魚介類を巡って、政府が大きな決断を下しました。2019年5月30日、政府は韓国から輸入される水産物に対する検疫体制を強化すると発表したのです。具体的には、来る6月1日より、ヒラメなど5つの品目について、輸入時に検査を行う割合をこれまでの2倍に引き上げるという厳しい措置となります。表向きは「夏の食中毒対策」とされていますが、このタイミングでの決定には、単なる衛生管理以上の「政治的なメッセージ」を感じざるを得ません。
今回の強化対象として特に注目されているのが、刺身や寿司ネタとしてもおなじみのヒラメです。検査の割合は、現在の全輸入量の20%から一気に40%へと引き上げられます。その主なターゲットは「クドア」と呼ばれる寄生虫です。クドアは、摂取すると数時間で激しい嘔吐(おうと)や下痢を引き起こす食中毒の原因物質として知られています。厚生労働省によれば、これまでも韓国産養殖ヒラメが原因とみられる食中毒が相次いでおり、韓国側に衛生管理を求めても明確な回答が得られなかったという経緯があるようです。
このニュースに対し、SNSなどのインターネット上では即座に大きな反応が巻き起こりました。「国民の健康を守るためには当然の措置だ」「もっと早くやるべきだった」という賛同の声が大半を占める一方で、「これは実質的な報復措置ではないか」「目には目を、ということか」といった、日韓関係の悪化を背景にした冷静な分析も飛び交っています。ヒラメ以外にも、生食用の冷蔵むき身であるアカガイ、タイラギガイ、トリガイ、ウニの4品目も検査率が10%から20%へと引き上げられることになりました。
WTO敗訴の記憶と「事実上」の対抗策
なぜ今、「報復」という言葉がささやかれるのでしょうか。それは、今年4月に世界貿易機関(WTO)で下された、ある「判決」が関係しています。2011年の福島第一原発事故以降、韓国は福島など8県の水産物を全面的に輸入禁止としてきました。日本はこの措置を不当だとして訴え、一審では勝利したものの、二審にあたる上級委員会で逆転敗訴してしまったのです。この悔しい記憶が新しい中での今回の措置は、韓国の禁輸に対する「事実上の対抗策」と見るのが自然でしょう。
菅義偉官房長官は30日午前の会見で、「食中毒が増加する夏場を控え、国民の健康を守る観点から行うものだ」と述べ、あくまで衛生上の理由であることを強調しました。しかし、外交の世界において偶然はありません。日本側はずっと「科学的根拠に基づいた対応」を求めてきましたが、韓国側がそれに応じないのであれば、日本側もまた「厳格なルール適用」によって自国の安全を守る。これは主権国家として極めて真っ当な判断だと言えます。
「大人の喧嘩」の行方
私自身の考えを申し上げれば、これは日本政府による非常に高度で計算された「外交カード」の切り方だと感じます。あからさまな「禁輸」という言葉を使わず、あくまで「検疫の強化」という正当な手続きを通じて相手にプレッシャーをかける。感情的にならず、ルールに則って静かにやり返す姿勢は、ある種の凄みさえ感じさせます。
もちろん、食の安全は外交交渉の道具ではありません。しかし、クドアによる食中毒リスクが存在する以上、検査を厳しくすることに異論を挟む余地はないはずです。今回の措置が、冷え込んだ日韓関係にどのような波紋を広げるのか、そして私たちの食卓の安全がどう守られていくのか。6月1日からの動きを、しっかりと注視していく必要があるでしょう。