2019年5月30日、あまりにも衝撃的で、かつ悲痛な叫びが聞こえてくるようなタイトルの書籍が紹介され、読書界隈をざわつかせています。その名も『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』(ジェームズ・ブラッドワース著)。経営学者の中沢孝夫氏が「目利きが選ぶ3冊」として取り上げたこのルポルタージュは、私たちが享受している「便利さ」の裏側にある、現代社会の闇を容赦なく暴き出しています。
中沢氏は本書を評して、「涙と一緒にご飯を食べた人間にはよくわかる辛い哀しみに溢れたルポルタージュ」と表現しました。この言葉だけで、胸が締め付けられる思いがします。著者が潜入したのは、ネット通販の巨人・アマゾンの巨大倉庫や、訪問介護の現場、保険会社のコールセンター、そして配車サービス・ウーバーの運転席です。これらは一見、好きな時間に働ける自由な仕事に見えますが、実態は「貧しさ」と「明日を生きることの恐怖」が支配する場所でした。
「自由な働き方」という名の孤独な搾取
ここで登場する仕事の多くは、「ギグ・エコノミー」とも呼ばれる単発の請負業務です。組織に縛られない自由がある一方で、最低賃金の保証や社会保障といったセーフティネットは希薄です。例えば、広大な倉庫を歩き回り注文品を集める「ピッキング」作業や、個人事業主として車を走らせるウーバーの運転手といった業務は、一見システム化され効率的に見えます。しかし、そこには同僚と語り合う「仲間の不在」があり、著者はそれを「砂を噛むような時間」と表現しています。
SNS上では、この書評に対して戦慄する声が広がっています。「毎日のようにアマゾンを使っているけれど、その向こう側にこんな地獄があるなんて」「テクノロジーの進化が人間を幸せにするとは限らないと思い知らされた」「自分もいつこうなるか分からない恐怖を感じる」といった、便利なサービスの恩恵を受けている消費者としての罪悪感や、不安定な雇用への不安を吐露するコメントが後を絶ちません。
「人間の尊厳」が見えない現場で、私たちは何を思うか
特に胸を打つのは、訪問介護の現場における離職率の高さや、コールセンター業務の無味乾燥さについての記述です。本来、人と触れ合うはずの仕事においてすら、そこにあるのは人間らしい温かみではなく、徹底した管理と効率化による「心の摩耗」なのです。中沢氏が指摘するように、「ここには人間の尊厳が見えない」という言葉は、現代の労働環境に対する最も重い告発と言えるでしょう。
コラムニストとして私自身の考えを述べさせていただくならば、この本が突きつけているのは「効率化の代償」です。私たちがスマホ一つで商品を翌日に受け取り、安価に移動できる背景には、誰かが涙を流しながら感情を押し殺して働く姿があるのかもしれません。労働が単なる作業となり、働く人の尊厳がシステムに飲み込まれていく。そんな社会のあり方に、私たちは今一度立ち止まって向き合う必要があるのではないでしょうか。