2019年5月30日、世界経済に激震が走るニュースが飛び込んできました。アメリカと中国の貿易摩擦が泥沼化する中、ついに中国側が「伝家の宝刀」とも言える最強の切り札を抜こうとしています。それは、ハイテク製品の製造に不可欠な「レアアース(希土類)」の対米輸出規制です。中国共産党の機関紙・人民日報は29日、「中国のレアアースで作った製品で中国の発展を抑え込もうとするなら、中国人民は決して納得しない」と強い口調で警告しました。
この動きは唐突なものではありません。これに先立つ2019年5月20日、習近平国家主席はレアアースの主要産地である江西省〓州(かんしゅう)を視察し、「重要な戦略資源だ」と明言していました。トランプ米政権が中国の通信機器大手・ファーウェイへの事実上の禁輸措置に踏み切ったことへの、強烈な報復措置であることは誰の目にも明らかです。まるでアクション映画のような緊迫した駆け引きが、現実の外交で行われているのです。
「産業のビタミン」を握られたアメリカの弱点
ここで「レアアース」について少し解説しましょう。これは、スマートフォンや電気自動車(EV)のモーター、さらにはミサイルなどの最先端兵器に至るまで、現代のハイテク製品を作る上で欠かせない鉱物資源の総称です。ごく微量加えるだけで性能が飛躍的に向上することから、「産業のビタミン」とも呼ばれています。問題は、その供給バランスです。中国は世界生産の約7割を握っており、対するアメリカは輸入の約8割を中国に依存しているのです。
SNS上では、このニュースに対して不安の声が爆発しています。「iPhoneやパソコンの値段が跳ね上がるのでは?」「ついに本気でやり合う気か」「2010年の日本への輸出停止を思い出す」といったコメントが相次ぎ、私たちの生活に直結する家電やガジェットへの影響を懸念する人が多いようです。実際、EVモーターの耐熱性を高める「ジスプロシウム」の価格は、投機的な買いも重なり、年初に比べて6割も高騰しています。
諸刃の剣? 過去の教訓が示す中国の孤立リスク
しかし、この「切り札」は中国にとってもリスクの高い「諸刃の剣」です。かつて中国の最高実力者・〓小平氏は「中東に石油あり、中国にレアアースあり」と豪語しましたが、資源を武器にする手法は副作用を伴います。記憶に新しいのは2010年、尖閣諸島問題を巡って日本へのレアアース輸出が滞った事件です。あの時、日本企業は必死で調達先を変えたり、レアアースを使わない技術を開発したりして、結果的に中国依存からの脱却を進めました。
コラムニストとして私自身の考えを述べさせていただくならば、今回の中国の動きは、短期的にはアメリカへの強烈な圧力になりますが、長期的には自らの首を絞めることになるでしょう。一度失った供給元としての信頼は簡単には戻りません。WTO(世界貿易機関)のルールにも抵触する可能性が高く、国際社会での孤立を深める恐れもあります。それでもなお、このカードを切らざるを得ないほど、中国側も追い詰められているのかもしれません。
「貿易戦争に勝者はいない」とよく言われますが、ハイテク産業の血流とも言えるレアアースが止まれば、その痛みはアメリカだけでなく、サプライチェーン全体を通じて世界中に波及します。習近平氏が振り上げた拳をどこに下ろすのか。私たちは今、世界経済の命運を分ける重大な岐路に立たされています。