2019年5月30日現在、外国為替市場ではユーロ相場の先行きに対して、弱気な見方が急速に広がっています。この日の東京市場において、ユーロは対円で1ユーロ=121円台という、年初来の安値水準で取引されました。また、対ドルでも売り圧力が強まっており、国際的な通貨としてのユーロの信頼性が試されている状況と言えるでしょう。
この「弱いユーロ」を生み出している背景には、大きく分けて経済の悪化、金融政策の方向性、そして政治的な混乱という、欧州経済が抱える三重苦があります。特に、米中貿易摩擦の激化という外部要因が、欧州経済の要であるドイツの輸出産業を直撃し、景況感の悪化が鮮明になりました。この結果、物価の低迷が顕著になり、欧州中央銀行(ECB)も、景気支援のために金融緩和に前向きなハト派姿勢に傾きつつあります。
ユーロ相場の具体的な動きを見ると、2018年末時点では対円で1ユーロ=126円前後だったものが、今年に入って約4円もの円高・ユーロ安が進行しました。年初の瞬間的な急騰である**「フラッシュ・クラッシュ」を除けば、これは2017年5月以来の安い水準に該当します。また、対ドルでも1月の1ユーロ=1.15ドル台から、足元では1ユーロ=1.11ドル台まで下落しており、ユーロの全面安の様相を呈しています。
ハト派ECBと投機筋の動向
このユーロ安の傾向は、市場のポジションにもはっきりと表れています。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、投機筋(非商業部門)の対ドルでのユーロのネットポジション**、つまり買い持ち高から売り持ち高を差し引いた数字が、2019年5月21日時点でマイナス10万枚超という、約2年半ぶりの水準にまで達しました。これは、「当面はユーロ安の圧力が強い」という市場の見方を裏付けるものでしょうと、メガバンクの市場部門担当役員は指摘しています。
ドイツ経済の不振は、米中貿易戦争の影響で中国経済が減速し、自動車をはじめとするドイツの輸出産業が大きな打撃を受けるという懸念が強まったことに起因します。さらに、三菱UFJ銀行の分析によると、ECBが重視する市場の予想物価上昇率も2016年秋ごろの水準にまで低下しており、ECBの理事会内でもこの物価低迷に対するいらだちの声が聞かれます。
米ゴールドマン・サックスのザック・パンドル氏は、「ECBは米連邦準備理事会(FRB)よりもはるかに金融緩和に近づいている」と分析しており、2019年6月の理事会でECBがよりハト派姿勢を強めるのではないかという観測が浮上しています。ハト派とは、景気刺激のために金融緩和、すなわち金利を下げて市場にお金を供給することに前向きな姿勢を指し、この姿勢は通貨安を招きやすいのです。
政治リスクの顕在化と投資妙味の喪失
さらに、欧州の政治情勢も大きなユーロ売り材料となっています。先週末に実施された欧州議会選挙では、英国、フランス、イタリアといった主要国で、EUに懐疑的な勢力が議席を増やし、欧州統合の不安定化が懸念されています。また、英国のEU離脱(ブレグジット)問題では、辞意を表明したメイ首相の後任に離脱強硬派が就任する観測が強まり、合意のないまま離脱する「合意なき離脱」のリスクが高まっています。
日本や米国では、現政権が比較的安定している状況に対し、欧州の政治リスクの高さが際立っています。かつて、日本の銀行や生命保険会社などの機関投資家が欧州国債に積極的に投資し、ユーロ相場の一種の防波堤として機能していました。2018年度は、欧州債券の買越額が11兆円強と前年度から8割以上も増加し、特にフランス債は2019年3月だけで3兆円以上の買い越しになったことが話題になったほどです。
しかし、足元ではフランスの長期金利も急激に低下し、投資妙味が薄れてきています。私の意見ですが、ユーロが抱える経済、金融、政治の複合的な問題は根深く、**「弱いユーロ」**は一時的なものではなく、ある程度定着する可能性が高いでしょう。SNS上では、「ユーロは買えない」「円が強いのは安心感からか」「いつ反発するんだろう」といった声が目立ちますが、ヘッジファンドの運用担当者からは「市場のユーロ高予想が少ないだけに、反発するときは大きい」という指摘もあります。しかしながら、現状では相場を反転させるための手掛かりを見いだしにくい状況が続いていると言えるでしょう。