ポスト「郵政民営化」の行方:日本郵政、政府の追加株売却で問われる**「独り立ち」への成長戦略**

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日本郵政グループの「民営化」が、いよいよ新たな局面を迎えることになります。政府は、日本郵政株の約57パーセントという保有比率を、2019年秋にも追加で市場へ売却する方針です。これにより、政府の持ち株比率は民営化法で定められた下限である「3分の1超」に近づく見通しとなっています。これは、日本郵政が公的機関から真の独立企業へと歩みを進めるための重要な一歩となるでしょう。

しかし、政府の持ち株が減少すれば、それだけ市場からの厳しい監視の目が注がれることになります。先に民営化を果たしたNTT(日本電信電話)やJT(日本たばこ産業)のように、市場を納得させる明確な成長への道筋が、残念ながら現在の日本郵政グループには見えていないのが現状です。特に、グループの「稼ぎ頭」とされてきたゆうちょ銀行は、長引く超低金利環境による収益の落ち込みに苦しんでいます。さらに、全国に広がる維持費のかさむ郵便局ネットワークの合理化についても、具体的な目処が立っていません。まさに、ここが日本郵政が「独り立ち」できるかどうかの正念場だと言えるでしょう。

巨大郵便局ネットワークの維持コストと政治の思惑

2019年5月19日、広島市で開催された全国郵便局長会(全特)の総会は、約8,000人もの出席者が集まり、熱気に包まれました。総会で青木進会長(当時)が「郵便局は、行政の撤退などによって生じた機能を担う」と発言し、業務拡大への意欲を示すと、これに対し、自民党の森山裕国会対策委員長は「地方創生を具体的に進めるために、法律が必要であれば努力しなければならない」と応じました。公明党の山口那津男代表も「法制度が必要なら、自民党と力を合わせ、基礎を整えたい」と述べ、参院選を控える中、強大な集票力を持つ全特への配慮とみられる発言が目立っていたのです。この総会では、郵便局ネットワークの維持にかかる費用についての議論は、ほとんど話題に上りませんでした。

郵便局ネットワークの維持には、ゆうちょ銀行が年間約6,000億円、かんぽ生命保険が約4,000億円もの巨額の手数料を、郵便局での貯金窓口業務や保険販売の対価として支払っています。この手数料こそが、全国約2万4,000局にもおよぶ巨大な郵便局網を支える生命線となっているのです。2019年3月期の郵政グループ連結純利益は4,794億円と前期から4パーセント増加しましたが、その一方で、ゆうちょ銀行の純利益は2,661億円と、なんと25パーセントもの大幅な減少を記録しました。低金利の影響で運用収益が減少しているゆうちょ銀行にとって、このネットワーク維持のための手数料負担は、非常に重くのしかかっています。

ゆうちょ銀行内部からは「手数料を引き下げたい」という声も聞かれますが、現在まで表立って具体的な検討には至っていません。さらに、自民党が主導し2018年夏に成立した議員立法に基づき、2019年4月からは、この手数料の一部が郵便局網の維持費として明確に位置づけられ、独立行政法人を経由して支払われる仕組みに変更されました。この動きは、逆に郵便局網の「合理化」をますます遠ざけてしまうのではないかという懸念の声も上がっています。

収益源の多角化と曖昧な民営化のゴール

2019年3月期の郵政グループの業績を支えた「ゆうパック」などの宅配便事業の好調も、将来にわたって永続する保証があるわけではありません。また、地方創生に貢献するとして進めている、郵便局による自治体業務の受託も、現状では大きな収益には結びついていないのが実態でしょう。そこで、郵政グループは新たな収益の柱を確立するため、他社との戦略的な提携を次々と打ち出しています。例えば、2019年4月からはアメリカの保険大手であるアフラック・インコーポレーテッドの株式を市場で買い集め始めました。これは、4年後には持分法適用会社とすることで、その利益の一部を連結決算に反映させることを狙ったものです。また、大和証券グループ本社との資産形成分野での提携は、手数料収入の積み上げを目指すものです。

このように、郵政グループの将来に不透明感がつきまとうのは、民営化法の「曖昧さ」にも一因があると考えられます。当初の民営化法では、日本郵政が保有するゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式を、2017年までにすべて売却することが義務付けられていました。しかし、2012年の法改正により、この売却期限が撤廃されてしまったのです。2019年4月には、かんぽ生命株を売却し、日本郵政の議決権比率を89パーセントから約65パーセント程度に引き下げましたが、ゆうちょ銀行株については、まだ89パーセントを保有し続けています。

日本郵政は、「金融2社(ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険)の株式は、まずは50パーセント程度まで段階的に売却していく」という方針を掲げているものの、その後の明確な計画を提示していません。もともと民営化に反対の立場だった自民党内のいわゆる「郵政族」議員からは、今でも金融2社株の完全売却に否定的な意見が出ており、「売却しなくても済むように、法律を改正すべきだ」といった主張さえ聞かれるのです。出資比率を半分残すのと、完全に切り離されるのとでは、グループ全体の収益構造が大きく変わってしまいます。金融2社の取り扱いがはっきりしない限り、日本郵政グループとしての中長期的な経営戦略を描くことは難しいと言えるでしょう。

私見を述べさせていただきますが、政府がさらなる株式売却を進め、真の「独り立ち」を促すこのタイミングこそ、日本郵政が政治の思惑から距離を置き、純粋な市場原理に基づいて経営戦略を構築する最後のチャンスではないでしょうか。金融2社株の取り扱いを巡る曖昧さを解消し、既存の郵便局ネットワークを維持コストではなく「地域のインフラ」としての新たな価値創造に繋げるような、攻めのサステナブルなイノベーション戦略を期待したいものです。この正念場を乗り越え、真に国民に資する企業へと進化できるかどうか、今後の動向に注目が集まっています。

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