産業ガス分野の大手企業であるエア・ウォーターが、画期的な産業用水素発生装置の開発に成功したというニュースが、2019年5月31日に報道されました。この新しい装置は、従来のシステムと比較して、運転コストをなんと25パーセントも削減できるという驚くべき性能を誇っています。この技術革新は、まさに「水素社会」実現に向けた強力な一歩となることでしょう。
この革新の秘密は、製造工程で生じる余熱を巧みに再利用する仕組みにあります。これにより、水素を生成する際の効率が大幅に向上したのです。環境への負荷を低減しつつ、コストパフォーマンスも追求したこの装置は、さまざまな業種への導入が見込まれており、同社はこれを新たな環境対応型のソリューションとして積極的に提案していく方針でございます。
この水素発生装置の名称は「VHR」といいます。2019年7月には、まず初号機が兵庫県尼崎市にあるエア・ウォーターの自社工場で、待望の商用運転を開始する予定となっています。装置の規模は、直径が約3メートル、高さが10メートルほどの円筒形をしており、この装置で生成された水素は、隣接するタンク群で高純度に精製されることになります。天然ガスと水蒸気を原料とし、1時間あたり300立方メートルもの水素を製造できる能力を備えているのです。
そもそも水素は、鉄鋼、半導体、光ファイバーの製造といった幅広い分野で欠かせない産業用ガスです。産業用水素の供給方法の約6割は、顧客の工場内に装置を設置して、そこで水素を製造・供給する「オンサイト方式」と呼ばれる形式が採用されています。これまでのエア・ウォーターの主流は「VH方式」という、天然ガス、水蒸気、そして酸素を反応させて水素を作る方式でした。
しかし、従来のVH方式では、水素生成に必要な熱を得るために、天然ガスと酸素を反応させる必要があり、開発担当者である田中真子氏によると「酸素の調達が大きな課題となっていた」とのことです。酸素は装置内で自己生成できないため、外部から調達せざるを得ず、これがコスト増の一因となっていたのです。しかし、今回開発されたVHRは、この酸素を一切必要としません。製造プロセスの中で発生する熱、すなわち「余熱」を有効活用する仕組みを確立したため、この酸素調達のネックが一気に解消されたというわけです。
「VHR」の驚異的な高効率性の秘密とは?
VHRの驚異的な効率性の背景には、化学反応プロセスの革新があります。水素製造プロセスでは、まず「改質器(かいしつき)」という装置で天然ガスと水蒸気を反応させ、一酸化炭素(CO)と水素を生成します。次に「CO変成器(へんせいき)」で、その一酸化炭素をさらに二酸化炭素(CO₂)と水素に変化させます。VHRでは、この「改質器」と「CO変成器」を一体化させることに成功しました。
この一体化により、一酸化炭素(CO)が二酸化炭素(CO₂)に変わる際に発生する「発熱」を、システム内で回収・利用できるようになりました。さらに、反応しきれずに残ってしまう天然ガスの量も低減しています。一般的な装置と比べて、同じ量の水素を作るために必要な天然ガス量が約1割も少なくて済むというのですから驚きです。エア・ウォーター総合開発研究所の末長純也所長が「水素をつくる効率は世界最高水準」と胸を張るのにも納得がいくでしょう。
このように製造効率が飛躍的に向上した背景には、化学工学の高度なノウハウと、徹底したエネルギー回収の思想が息づいています。この技術革新は、単にコストを下げるだけでなく、地球温暖化の原因となる化石燃料の使用量を抑制することにも繋がりますから、まさに時代の要請に応える「サステナブルな技術」と評価できるでしょう。
コストメリットを顧客と分かち合う新ビジネスモデル
エア・ウォーターのビジネスモデルも非常にユニークで魅力的です。同社は、VHRなどの水素発生装置を自社の費用負担で顧客の工場に導入します。そして、装置の運用やメンテナンスをすべて請け負い、顧客に対しては水素ガスの販売料金の中にこれらの費用を含めて徴収するという形をとっています。顧客にとっては、初期投資の負担なしに最先端の低コスト装置を導入できるという、非常に大きなメリットがあるわけです。
同社は既に、製鉄所などで副産物として発生する水素を精製する技術や、メタノールなどから水素を生成する装置も手掛けており、水素に関する総合的なソリューションを提供できる強みを持っています。現在、全国にある同社の製造拠点のうち約3割で従来のVH方式を使用していますが、今後は年に1〜2基のペースでこのVHRを順次設置していく方針とのことです。
さらに、白井清司社長は「次のステップとしてCO₂を販売する」と、次なる事業展開への意欲を示しています。熱回収によって副次的に発生する二酸化炭素(CO₂)は、ドライアイス製造用などで需要が伸びており、これを商品として活用することで、水素の低コスト製造とCO₂の収益化という「一挙両得」のシナジー効果を狙う戦略でございます。製造業において、排出物を価値ある商品へと転換する、このゼロ・エミッション的な発想は、多くの企業にとって手本となる経営戦略と言えるのではないでしょうか。このエア・ウォーターの取り組みは、コスト競争力と環境配慮を両立させ、持続可能な社会への貢献を力強く進めていく、まさに化学産業の未来を象徴する事例だと感じます。
(※SNSでの反響として)この報道は、環境技術に関心の高いビジネス層を中心に「イニシャルコストなしで低コスト化は魅力的!」「発生したCO₂まで売るという発想がすごい」「日本の技術力が詰まっている」といった、高い評価と期待をもって受け止められています。特に、企業の環境対策と経済合理性を両立させるモデルとして、多くの経営者や技術開発担当者から注目を集めていることでしょう。