【会社法】会社設立における出資の履行!会社運営資金の要である出資を受ける流れ

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会社を設立するあたって会社の資本金を確保するために「出資の履行」を受ける必要があります。

金銭での出資を履行を受けることもあれば、金銭的価値を有する有価証券等によって現物出資をうけることもあります。

発起設立の場合は、会社設立を担う発起人が出資を履行することになりますが、募集設立の場合は第三者からの出資を募ることになります。

会社設立手続きにおける「出資の履行」手続きを見ていきましょう。

【発起設立の流れ】
①定款作成
②定款の認証
③出資の履行
④設立時役員等の選任及び解任
⑤設立時取締役等による調査
⑥設立登記



【募集設立の流れ】
①定款の作成
②定款の認証
③設立時募集株式を引き受けるものの募集、設立時募集株式に関する事項の決定
④設立時募集株式の引き受けの申し込み
⑤設立時募集株式の割り当て
⑥出資の履行
⑧設立時役員等の選任解任
⑨設立時取締役による調査
⑩設立登記





「金銭出資の履行」と「現物出資の履行」


株式会社の設立に際して、会社財産確保の要請を担保するため、「金銭出資の履行」・「現物出資の履行」が重要です。



金銭出資の履行


1 払込期日

発起人は引受け後遅滞なく(34Ⅰ本)、募集設立の場合の募集株式の引受人は発起人が定めた払込期日又は払込期間中に(63Ⅰ)、引き受けた株式につき発行価額全額の払込みをしなければなりません(全額払込制)。

この引受けに係る意思表示については、心裡留保・虚偽表示の規定(民93Ⅰただし書・94Ⅰ)によって無効となることはありません(51Ⅰ、102Ⅲ)。さらに、会社設立後又は創立総会での権利行使後は、錯誤・詐欺・強迫があった場合であっても、株式の引受けの無効主張、取消しはできません(51Ⅱ、 102Ⅳ)。

もっとも、行為能力の制限(民5、9、13等)又は詐害行為・否認(民424、破産160等)を理由とする株式の引受けの取消しは制限されておらず、会社の成立後にそれが主張されることはあり得ます。

2 払込取扱機関

払込みは、発起人が定めた払込取扱機関(銀行・信託会社等)で行わなければならない(34Ⅱ、63Ⅰ)。募集設立の場合の募集株式の払込みについては、払込取扱機関は払込金の保管証明責任を負います(64Ⅰ)。

この制度は、設立に直接関与していない引受人から払い込まれた金銭を成立後の会社の運営のために使用できないというのは引受人の期待を裏切ることになり、仮装払込みに協力した払込取扱機関よりも引受人の利益を優先すべきことから、設けられている。
会社法34条

【出資の履行】
1 発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げない。 2 前項の規定による払込みは、発起人が定めた銀行等(銀行(銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行をいう。第七百三条第一号において同じ。)、信託会社(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第二項に規定する信託会社をいう。以下同じ。)その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の払込みの取扱いの場所においてしなければならない。

発起設立における払込金保管証明制度の廃止

旧商法下では、発起設立と募集設立の場合いずれにおいても、払込金保管証明責任を負うものとされていました(旧189)。

しかし、発起設立の場合は発起人のみが出資者となるから、自身が財産の保管に携わることができ、特に払込保管証明の制度による必要はありません。

他方で、募集設立の場合は発起人以外の者も出資をするので、出資した財産の保管状況を明らかにするため、保管証明の制度を用いることが望ましいのです。

そこで、会社法は募集設立の場合においてのみ払込保管証明制度を採用し(64)、発起設立においてはこれを廃止しました。



現物出資の履行


現物出資者は、払込期日に目的財産の全部を給付することを要します(34Ⅰ本)。目的物を引き渡し、登記・登録等に必要な書類を交付することを要するのです。

もっとも登記・登録等の行為は、発起人全員の同意があれば、会社成立後に行って差し支えありません(34Ⅰただし書)。いったん発起人名義にした後に、会社成立後にさらに会社名義に変える面倒を避けるためです

現物出資の給付の不履行は、その給付がないと会社の目的が達成できない場合もあるので、失権手続によらず、民法に従った直接強制(民414Ⅰ)をすることも可能と解すべきでしょう。

そして、失権手続がなされ、現物出資がなされなかった場合に会社設立を目指すときは、認証された定款の変更にあたり(28①)、再度公証人の認証を受けて設立手続を更新する必要が生じます(30Ⅱ)(江頭・80頁)。



株式払込の仮装


預合い


預合いとは、発起人が払込取扱銀行から金銭を借り入れ、これを設立中の会社の預金に振り替えて株式の払込みにあてるが、その借入金を返済するまではその預金を引き出さないことを約することをいいます。

この借入れと払込みは単に帳簿上のものにすぎず、現実に金銭が授受されるわけではありません。そのため預合いによる払込みは、会社法34条の「払込み」として有効かが問題となります。

預合いによる払込みは銀行の帳簿上の操作にすぎず、会社にとって実質的には財産は確保されていないため、これを有効と解すると会社債権者及び他の引受人を害する。よって預合いによる払込みは、会社法34条の「払込み」としては無効です。

「預合い」は仮装払込として、払込みの効力は認められないことから、その部分については、設立時発行株式の株主になれない。預合いによる払込みは、銀行の帳簿上の操作にすぎず、会社にとって実質的には財産は確保されていないので、会社債権者及び他の引受人を保護する必要性があるからです。

また、払込取扱銀行が払込金保管証明をしていれば、払込取扱銀行は払込金返還に関する制限を会社に対抗できない(64Ⅱ)。さらに、預合いを行った発起人等及び預合いに応じた払込取扱機関には刑事責任が科されている(965)。

判例 最判昭42.12.14 百選〔98〕

会社が払込取扱銀行から金銭を借り入れ、これを従業員等に対する債務の弁済という形で交付し、従業員等が当該会社の株式引受人として右金銭を株式払込金に充てるという払込方法が行われたような場合に、預合罪(965条)が成立するか否かについては「株式引受人の会社に対する債権が真実に存在し、かつ会社にこれを弁済する資力がある」かどうかを慎重に考慮すべきであるとした。



見せ金による払込みの効力


見せ金による払込みの効力をいかに解すべきか。預合と異なり、形式的には金銭の移動があることから問題となります。

判例は、払込みが有効か否かの判断事情として、①借入金返済までの期間の長短、②払戻金が会社資金として運用された事実の有無、③借入金返済が会社の資金関係に及ぼす影響等を挙げたうえで、実質的には払込みがあったとはいえないとして無効としました。

確かに、形式的に個々の行為を捉えれば、現実に金銭の移動もあるから、払込みとしての効力が認められるとも考えられます。

しかし個々の行為は無関係な偶発的なものではなく、発起人により当初から仕組まれた仮装払込の一環であり、実質的には払込みがあったとは考えられません。

よって見せ金による払込みは、預合いの潜脱行為として、会社の財産的基礎確立、及び株式引受人間の平等の見地から無効であると解されます。

そしてかかる仮装払込にあたるか否かは、① 会社成立後、借入金を返済するまでの期間の長短、② 払戻金が会社資金として運用された事実の有無、③ 借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無等を考慮して決すべきです。

判例 最判昭38.12.6
事案: 発起人総代が払込取扱銀行から払込資金を借り入れ、それを払込金として払込取扱銀行に払い込んだうえで、会社成立後会社が右払込金を引き出し、これを右の者に貸し付けて、その者はその資金を借入金返済にあてた事案。
判旨: 「当初から真実の株式の払込として会社資金を確保するの意図なく、一時的の借入金を以て単に払込の外形を整え、株式会社成立の手続後直ちに右払込金を払い戻してこれを借入先に返済する場合の如きは、右会社の営業資金はなんら確保されたことにはならないのであって、かかる払込は、単に外見上株式払込の形式こそ備えているが、実質的には到底払込があったものとは解し得ず、払込としての効力を有しないものといわなければならない」とし、また、有効な払込みであるかどうかは、会社成立後前記借入金を返済するまでの期間の長短、右払戻金が会社資金として運用された事実の有無、右借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無等の事情により判断すべきであるとした。

【昭和57年度第1問】設立登記を済ませた株式会社の設立手続に次の事実のあることが判明した。(1)(2)の各場合において、この会社の設立の効力につきどのような問題を生ずるか。また、だれがど のような責任を負うことになるか。
(1) 発起人代表は、発起人全員の合意に基づき、第三者から払込資金を借り入れ、各発起人の引き受けた株式の払込みに充てた。その発起人は、代表取締役に就任し、設立登記直後に、払込取扱銀行からその払込金相当額の払戻しを受けて、借入先に返済した。
(2) 現物出資者が出資の目的である財産を給付していない。



見せ金をした者の責任


見せ金をした発起人は、任務懈怠責任として、会社・第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(53)。

965条による刑事責任については、同条に見せ金を罰する明文の規定がないことから、刑法上の原則である罪刑法定主義の見地より否定されているのです。もっとも、発起人が創立総会で見せ金による払込みの事実を隠蔽したときは、会社財産を危うくする罪(963Ⅰ)が成立します。

金銭の取得行為をなした取締役が、自己及び他の発起人の借入金の返済にあてる目的で、株式会社の金銭を取得した行為は、利益相反取引(356Ⅰ②)に該当します。会社の業務執行を担う取締役が会社の不利益となる行為を行うことになるからです。

当該取締役は、株式会社に対して任務懈怠責任(423Ⅰ)を負い、その訴訟においては、任務懈怠が推定されるのです(423Ⅲ①)。

払込取扱機関に関しては、通常見せ金については善意であるため、預合いの場合と異なり、責任を負いません。しかし、銀行が悪意又は重過失であった場合には、64条2項の保管証明責任を負うと解されます。
会社法53条

【発起人等の損害賠償責任】
1 発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 発起人、設立時取締役又は設立時監査役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

会社法356条

【競業及び利益相反取引の制限】
1 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

判例 最決平3.2.28百選〔99〕
典型的な見せ金の事例とは異なる払込みの事例であったが、見せ金に類似するものとして払込みの効力を無効とした上で、取締役が新株発行に基づいて行った発行済株式総数の変更登記の申請が、公正証書原本不実記載罪にあたることを認めた。



預合と見せ金の異同


預合と見せ金は、金銭が払込取扱銀行に現実に払い込まれたか否かという点において違いがあります。すなわち、預合の場合には金員の移動は帳簿上の操作でなされているのにすぎないのに対して、見せ金の場合には現実に金員の移動がなされている点に違いがあります。

しかし、形式的に金銭が払い込まれている見せ金であっても、実質的には仮装払込であって会社財産の確保ができなくなる点において預合と変わりはなく、この点で預合と共通性を有するといえます。

預合見せ金
借入先払込取扱銀行払込取扱銀行以外の第三者
金員の移動帳簿上の操作現実の移動
共通点・発起人の仮装払込の計画
・実質的にみれば両者とも払込みなし


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