近年、日本では**「事業承継」というテーマが注目を集めています。これは、企業がこれまで培ってきたノウハウや顧客基盤、そして何よりも優秀な人材といった貴重な資産(人・モノ・カネ・知的財産)を、次の世代や新たな経営者に引き継ぐことです。特に後継者不足に悩む中小企業が多い中、これは日本の経済を持続させるための重要なカギとなっています。一から事業を立ち上げる「ゼロイチ起業」だけではなく、既存の事業を引き継ぐという道を選ぶ方も増えているのが現状です。
しかしながら、事業承継は決して楽な道のりではありません。引き継いでみたら想定していた売り上げが確保できなかったり、時には隠れたトラブルや負債まで引き継いでしまうといったリスクも存在します。そうした中で、見事に事業承継を成功させた一例として、高橋俊哉さん(60歳)のストーリーをご紹介しましょう。高橋さんは大手印刷会社で法人営業のキャリアを積み重ねてこられましたが、BtoB(Business to Business:企業間取引)の仕事では、サービスや商品の最終的な受け手であるエンドユーザーの喜びを直接感じにくいというジレンマを抱えていらっしゃいました。いつかはお客様の笑顔を直接見られる仕事に挑戦したいと、奥様と常々語り合っていたそうです。
その想いを胸に、高橋さんは2016年に当社のシニア起業スクールに参加され、事業計画を具体化されました。日本が抱える大きな課題である少子化を背景に、今後は「結婚をサポートする事業」、すなわち結婚情報サービスへのニーズがますます高まると確信されたのです。早期退職を決断された高橋さんは、奥様と二人三脚で事業を大きく展開するため、単なる個人事業ではなく、法人格や店舗、そして長年かけて築かれたネットワークなど、すでに実績のある企業から事業を引き継ぐ「法人格での事業承継」を模索し始めました。
高橋さんが最初に向かわれたのは、スクールで紹介された神奈川県の「事業引継ぎ支援センター」です。この公的な支援機関には、後継者がいない企業と起業を志す人々を結びつける「後継者バンク」という無料のサービスがあります。高橋さんはここで希望条件に合う案件を探されましたが、当初はなかなか見つからなかったようです。しかし、支援センター担当者の粘り強い尽力の結果、ついに21年間もの長きにわたり結婚相談業を営んできたパートナー企業(神奈川県大和市)の事業を承継することが決定し、スムーズにバトンが引き継がれました。
もちろん、事業承継には一定の投資、すなわち資金が必要となります。高橋さんも然るべき金額を投じられましたが、実際に引き継いでみると、期待していたネットワークが想定よりも機能していないなど、いくつかの見込み違いもあったとのことです。しかし、高橋さんはそれらすべてを上回る、とてつもない財産が残されていたと断言されます。それは、この結婚相談業において文字通り「生命線」とも言える、経験豊富なカウンセラーという人的資産です。
高橋さんは、「ある程度のリスクは覚悟していました。しかし、今の厳しい人手不足の状況下で、優秀な人的資産を引き継げたことは本当に大きかった」と語られています。結婚相談業は、初期の設備投資といった元手はそれほどかかりませんが、お客様を目標へと導くカウンセラーの能力が事業の成否を握っています。何もない状態から会社を立ち上げる苦労を考えれば、経験豊かなスタッフ、さらには店舗やこれまでの顧客といった「地盤」をそのまま引き継げたことは、計り知れないメリットになったことでしょう。
この記事が公になった2019年5月31日時点では、SNS上では「事業承継は賢い起業方法だ」「高橋さんのように経験を活かして人生の再スタートを切る姿に勇気づけられる」といったポジティブな反響が寄せられています。特に、50代や60代といったシニア層の起業の新たな選択肢として、この「事業承継」という手法が注目を集めているのが見て取れます。高橋さんの事例は、単なるビジネスの引き継ぎではなく、ご自身の長年の経験と新たな事業への熱意を見事に融合させた、理想的なゆる起業**の形を示していると言えるでしょう。
承継後の展望と私の意見
高橋さんは今後、承継したパートナー企業が積み上げてきた土台を基盤として、さらに事業を拡大していく予定です。具体的には、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)といったデジタルツールを積極的に活用し、新たな顧客層へアプローチする計画を進めていらっしゃいます。私の個人的な意見としては、この判断は非常に時宜を得ていると言えるでしょう。長年培ったアナログな信頼関係と、SNSが持つスピーディで広範囲な情報拡散力を組み合わせることで、結婚相談業は新たなフェーズを迎えることができるはずです。
事業承継とは、単に過去の負の遺産やリスクを引き継ぐことではありません。それは、前経営者の情熱と、長年の顧客からの信頼、そして何よりも事業を支えてきた人々の「想い」を引き継ぎ、それをさらに発展させるという、きわめてクリエイティブな行為であると私は考えます。高橋さんの「エンドユーザーの喜ぶ顔が見たい」という熱い想いは、これから多くの人々の良縁を結び、少子化という社会課題の解決にも微力ながら貢献していくでしょう。この**「人を活かす事業承継」**こそ、これからの日本経済にとって最も必要な起業のあり方ではないでしょうか。