NISAだけでは不十分?「貯蓄から投資へ」の意外な落とし穴と、日銀が香港に学ぶべき大逆転の秘策とは

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日本国内で「貯蓄から投資へ」というスローガンが叫ばれて久しいですが、現在の状況は数字が示すほど楽観視できるものではないかもしれません。全国証券取引所が先週発表した2018年度末の株式分布状況調査の結果によれば、個人の持ち株比率は17.2%となり、前年度と比較して0.2%上昇しました。これは実に3年ぶりの改善であり、少額投資非課税制度、いわゆるNISAなどを活用して現役世代が積極的に資産運用を始めた兆しであると、市場では一定の評価を浴びているようです。

しかし、この数字の裏側には、手放しでは喜べない複雑な事情が隠されています。実は同じ取引所が公表している投資部門別売買状況を確認すると、2018年度に個人投資家は2.8兆円もの大幅な売り越しを記録しているのです。保有比率が上がっているのに実際には売っているという、この一見矛盾した現象を紐解く鍵は、株式市場に新しく仲間入りする「IPO(新規株式公開)」の存在にあります。この統計上のズレを冷静に分析していくと、私たちの投資環境の課題が浮き彫りになってくるでしょう。

ソフトバンク株の「塩漬け」が招いた統計の罠

この不可解な現象を説明する最大の要因は、2018/12/19に上場を果たした携帯電話大手、ソフトバンクの大型IPOに他なりません。IPOとは、企業が初めて株式を証券取引所に公開して、誰でも自由に売買できるようにすることを指します。この時、発行された株の大部分を個人投資家が引き受けたため、統計上の保有比率だけが跳ね上がることとなりました。期待を集めた同社ですが、その後の株価は低迷が続いており、多くの投資家が売るに売れない状況に追い込まれています。

専門用語でこのような状態を「塩漬け」と呼びますが、もしこのソフトバンク株の影響を除外して計算し直すと、個人の持ち株比率は実質16.9%となり、前年度から0.1%低下していた計算になります。SNS上でも「期待して買ったソフトバンク株が重荷になっている」「投資を始めたつもりが、出口が見えない」といった嘆きの声が散見されるのも無理はありません。数字上の微増は、自発的な投資意欲の高まりというよりは、むしろ苦肉の策として保有し続けざるを得ない人々の姿を反映しているのです。

日銀が「市場のクジラ」化するリスクと副作用

さらに注視すべきは、投資信託の持ち株比率が8.4%という過去最高水準に達している点です。投資信託とは、運用のプロが投資家から集めたお金をひとまとめにして運用する金融商品のことですが、この数字には大きな偏りがあります。驚くべきことに、そのうちの約半分にあたる4.7%分を日本銀行が保有する「ETF(上場投資信託)」が占めているのです。ETFとは、日経平均株価などの特定の指数に連動するように作られた、取引所で売買可能なパッケージ商品のことです。

日銀が市場から大量に株を買い支えることで、株価が不自然に維持される副作用も指摘されており、ネット掲示板などでは「日銀が市場を歪めている」「もはや官製相場だ」という批判的な投稿も目立ちます。今の市場は、個人の積極的な買いではなく、塩漬けにされた株と日銀による巨額の買い入れによって、かさ上げされた砂上の楼閣のような状態と言えるでしょう。笛を吹けども踊らない個人投資家を真に動かすには、今のままの延長線上ではない、全く新しい刺激が必要だと私は確信しています。

香港の成功例に学ぶ、個人の資産形成を促す驚きの施策

そこで参考にしたいのが、かつてのアジア通貨危機に際して香港政府が実行した驚きの政策です。1998/08、香港政府は投機筋の売り崩しに対抗するため、市場の約6%に相当する株式を買い上げました。特筆すべきはその出口戦略にあります。1999年から保有株を処分する際、彼らはそれをETF化し、個人投資家に対して時価より5%も安い優待価格で売却したのです。さらに、1年以上保有し続けた人には、無償で追加のETFを付与するというボーナスまで用意し、長期投資家を育成することに成功しました。

この大胆な施策により、香港では個人の持ち株比率が6%も上昇しました。私は、日本もこの香港モデルに倣うべきだと考えます。日銀が抱え込んでいる膨大なETFを、将来の資産形成を担う現役世代へ、有利な条件で譲渡するのです。これは単なるバラマキではなく、市場の歪みを解消しつつ、国民の「貯蓄から投資へ」という流れを加速させる強力な起爆剤になるはずです。現在の閉塞感を打ち破り、誰もが前向きに投資に取り組める環境を作るために、国や日銀にはこれくらい独創的な工夫を期待したいところです。

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