会社の設立の手続きについて詳しく解説するとともに、設立に際して生じてくる様々な問題点を考えていきましょう。
「実体の形成」と「法人格の付与」
会社の設立登記がなされることではじめて、法人格が付与され会社が成立します。
【株式会社の成立】
株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
会社の設立とは、会社という一個の団体を形成するとともに、会社という一個の法人を成立させる手続きをいいます。
①一個の団体という実体を形成するとともに、②法人格が付与されなければなりません。
そして会社という団体を形成するためには、①団体の根本規範たる定款の作成、②団体の構成員であり出資者である社員の確定、③団体が活動するための機関の具備、の3点が必要です。
さらに法定の手続きに従って会社の実体が形成された後、設立登記がなされることにより法人格が付与され、会社が成立します。
実体の形成
持分会社の実体の形成が基本的には定款の作成によって完結するのに対して、株式会社では社員の確定も機関の具備も定款の作成とは別の手続きを要します。
現行法は会社の実体形成に際し遵守すべき準則を定め、それに従わなければ法人格付与を拒否するとともに、それが遵守される限り当然に法人格を認めるという準則主義を採用しています。
株式会社と持分会社の実体の形成
合名会社は、社員相互間の人的信頼関係が前提とされ、各社員が無限責任を負うために会社債権者保護の必要性は低いといえます。このことは、無限責任社員がいる合資会社についても同じで、合同会社についても、社員相互間の人的信頼関係が前提とされていることが多いといえます。これに対して株式会社は、各社員が有限責任しか負わないことから、会社債権者保護の必要性は高いのです。そこで、設立については厳格な規定が置かれ、設立手続は複雑なものとなっています。
すなわち、持分会社の実体の形成が基本的には定款の作成によって完結するのに対して、株式会社では社員の確定も機関の具備も定款の作成とは別の手続きを要するとされているのです。
| 株式会社 | 持分会社 | |
|---|---|---|
| 特色 | ①社員の地位が細分化された割合的単位とされる②間接有限責任(104) | ①社員の地位は各社員に月単一であり、その内容が出資の価額に応じて異なる②合名会社の場合は直接無限責任、合同会社の場合は間接有限責任、合資会社の場合は直接無限責任と直接有限責任 |
| 定款の作成 | ①発起人が作成する(26Ⅰ)②公証人の認証が必要(30Ⅰ) | ①社員になろうとする者が作成する(575Ⅰ)②公証人の認証は不要 |
| 社員の確定 | 現物出資者がいる場合は定款に定めるが(28①)、それ以外の場合は定款外における設立時発行株式の引受け(25Ⅰ、62)及び出資の履行(34、63)によって確定する | 社員の氏名又は名称及び住所が定款記載事項なので、定款作成により社員は確定する(576Ⅰ④) |
| 社員の提供する出資 | ①定款で定めた坂井豪と現物出資の場合を除き、定款外で出資が確定する(32Ⅰ②、58Ⅰ②)②出資は設立前に履行されることを要する(34Ⅰ本、63Ⅰ)。もっとも、発起人や設立時募集株式の引受人が期日までに払込みをしない場合は、失権するが(36Ⅲ、63Ⅲ)、定款に定められた「設立に際して出資される財産の最低額」(27④)を満たしていれば、設立手続を続行することができる③財産出資に限られる(27④、32Ⅰ②、58Ⅰ②) | ①社員の出資の目的及びその価額又は評価の標準が定款に記般されるので、定款作成により、出資が確定する(576Ⅰ⑥)②社員の出資義務は、合同会社を除き(578)、会社成立前に履行されることを要しない③無限責任社員の出資の目的は、財産出資の他、労務や信用でもよい(民667Ⅱ、会576Ⅰ⑥参照) |
| 機関の具備 | 株主が当然に機関となるのではなく、設立時取締役や設立時監査役は、発起人により、又は創立総会で別途選任される(38~41、88~90) | 社員が当然に機関となる(590、599)。ただし、定款で別段の定めを設けることも可能である |
法人格の付与
以上のような実体形成の準則に従って会社の実体が形成されると、法人格が付与されることになります。
法人格とは法律上の権利・義務の主体となれる地位のことであり、平たく言うと法人として第3者と契約が締結できる地位獲得するのです。
このように会社の実体が法人格を取得することを会社の成立といい、その時期は、会社の本店の所在地で設立の登記をした時です。
持分会社の株式会社への組織変更(743、746、747、781)は、すでに存在する法人の組織変更に過ぎず、「設立」にはあたりません。また、特例有限会社もすでに法的には株式会社ですから(整備法2Ⅰ)、特例有限会社が商号中に「株式会社」の文字を使用するための定款変更をすることにより通常の株式会社に移行する場合(整備法45)も、「設立」に該当しません。しかし、両手続きは、もとの会社につき解散の登記、株式会社につき設立の登記をすることになります(920、整備法46)。
設立手続の概略
株式会社の設立に関する個々の論点について検討していく前提として、まず大まかな設立手続の流れをおさえます。その際、発起設立と募集設立の設立手続の違いに注目しましょう。
発起設立と募集設立
発起人が設立時発行株式(株式金社の設立に際して発行する株式)の全部を引き受ける設立方法を発起設立(25Ⅰ①)といいます。
一方で設立時発行株式の一部を発起人が引き受け、残部を他から募集する設立方法を募集設立(同Ⅰ②)というのです。
そして発起設立と募集設立とでは設立手続に違いがあり、会社設立に携わる発起人以外の者が会社に参加することとなる募集設立の方が手続きが複雑となっています。
1 株式会社は、次に掲げるいずれかの方法により設立することができる。
一 次節から第八節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式(株式会社の設立に際して発行する株式をいう。以下同じ。)の全部を引き受ける方法
二 次節、第三節、第三十九条及び第六節から第九節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法
2 各発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行株式を一株以上引き受けなければならない。
発起設立の流れ
(1)定款の作成・認証
発起人は、定款を作成して、公証人の認証を受けなければなりません(26Ⅰ、30Ⅰ)。(2)株式発行事項の決定
発起人は、その全員の同意を得て、以下の事項を定めなければななりません(32Ⅰ)。 ① 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数 ② ①の設立時発行株式と引き換えに払い込む金銭の額 ③ 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項(3)発起人による株式の引受け
発起人は、設立時発行株式の全部を引き受けなければならりません(25Ⅰ①)。
発起人は、設立時発行株式の引受けにより、出資の履行をすれば設立時発行株式の株主となる権利を取得できます。この点、会社との関係で当該権利の譲渡の効力を認めると、設立手続が煩雑になる可能性があるため、その権利を譲渡しても、成立後の会社に対抗できません(35)。出資の履行をした後の権利(会社成立時に株主となる権利)についても同様です(50Ⅱ)。もっとも、成立後の会社に「対抗することができない」にすぎないことから、債権契約として当事者間では効力を認めても差し支えないし、また会社側から任意に譲受人を株主として取り扱うことまで禁止されるわけではありません。
(4)出資の履行
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければなりません(34Ⅰ)。発起人のうち出資の履行をしていない者は、一定の失権手続が経られた場合、「出資によって設立時発行株式の株主となる権利」を失います(36)。
旧商法下では、発起人が出資を履行しなかった場合についての規定はありませんでした。他方で、引受人が出資をしなかった場合は株主となる権利を失う旨の規定がありましたが、この場合は発起人が引受担保責任を負うものとされていました(旧192)。
しかし、前述の通り会社法の下では設立時発行株式数を定款に記載する必要はないので、出資の不履行がある場合に株式の引受けを失権させても不都合ありません。
そこで会社法においては、設立時募集株式の引受人のみならず、発起人についても、出資の履行をしない場合は失権することとしています(36Ⅲ、63Ⅲ)。
(5)設立時役員等の選任
発起人は、定款をもって設立時役員等(株式会社の設立に際して取締役、会計参与、監査役または会計監査人となる者)が定められていないときは、出資の履行が完了した後、遅滞なく、設立時役員等を選任しなければなりません(38Ⅰ、Ⅱ)。
【設立時役員等の選任】
1 発起人は、出資の履行が完了した後、遅滞なく、設立時取締役(株式会社の設立に際して取締役となる者をいう。以下同じ。)を選任しなければならない。
2 設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合には、前項の規定による設立時取締役の選任は、設立時監査等委員(株式会社の設立に際して監査等委員(監査等委員会の委員をいう。以下同じ。)となる者をいう。以下同じ。)である設立時取締役とそれ以外の設立時取締役とを区別してしなければならない。
(6)設立時取締役及び設立時監査役の設立調査手続
設立時取締役及び設立時監査役は、その選任後遅滞なく、46条1項各号の事項につき調査を行わなければならない。
旧商法下では、成立後のみならず成立前においても「取締役」「監査役」という用語が用いられていました。しかし、会社成立の前と後とでは、取締役等の職務には大きな違いがあります。
そこで、会社法は設立に際して取締役等になるべき者を、設立時取締役、設立時監査役等と定義し、成立前後で区別して取り扱うこととしました。設立時取締役等は、旧商法下での会社成立前の取締役と同様の内容の役割を負います。
もっとも、会社成立前の取締役は設立中の会社を代表する権限はないので、検査役の選任等の対外的な行為はすべて発起人が行うことになります。
(7)検査役の調査等
定款で変態設立事項を定めた場合には、発起人は、現物出資・財産引受等の例外的な場合(33X各号)を除いて、その事項を調査させるために、定款の認証後遅滞なく、検査役の選任を裁判所に申し立てなければなりません(33Ⅰ)。(8)設立登記
最後に、本店所在地において設立の登記をすることによって、株式会社は法人格を取得し成立します(49)。
【株式会社の成立】
株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
募集設立の流れ
会社設立の主催者である発起人の他に、発起人以外からの株式の引き受けを募る募集設立の流れを見ていきましょう。
(1)定款の作成・認証
発起人は、定款を作成して、公証人の認証を受けなければなりません(26Ⅰ、30Ⅰ)。(2)株式発行事項の決定
発起人は、その全員の同意を得て、以下の事項を定めなければなりません(32Ⅰ)。① 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
② ①の設立時発行株式と引き換えに払い込む金銭の額
③ 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項
(3)発起人による株式の引受け、払込み
発起人は、設立時発行株式の一部を引き受けます(25Ⅰ②)。募集設立の場合でも発起人は一株以上引受け・払込みをしなければいけないのです(25Ⅱ)。その後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければなりません(34Ⅰ)。
江頭先生は、設立時取締役の権限について、明文の規定がある場合を除き、発起人に対する監督に限定されたと解すべきであるとされています(江頭・82頁)。
(4)残りの株式についての株主の募集
発起人は、設立時発行株式の一部を引き受けるにすぎないため、さらに残りの設立時発行株式につき株主の募集を行うことを要します(25Ⅰ②)。この場合、引受人保護の観点から、募集の条件は均等にしなければならず(58Ⅲ)、また定款の内容・発起人の出資の状況等を申込みをしようとする者に対し通知しなければなりません(59Ⅰ、規8)。
(5)株式の申込み
設立時募集株式の引受けの申込みをする者は、一定の事項を記載した書面を発起人に交付しなければなりません(59Ⅲ)。これは電磁的方法によってすることもできます(59Ⅳ、令1、規230)。また心裡留保、通謀虚偽表示による株式申込みは、民法の規定にかかわらず有効です(102Ⅲ)。錯誤無効の主張、詐欺・強迫による取消しは、会社成立後又は創立総会において議決権を行使した後には認められません(102Ⅳ)なお、旧商法における株式申込証制度は廃止された。
【設立時募集株式の申込み】
1 発起人は、第五十七条第一項の募集に応じて設立時募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。
一 定款の認証の年月日及びその認証をした公証人の氏名
二 第二十七条各号、第二十八条各号、第三十二条第一項各号及び前条第一項各号に掲げる事項
三 発起人が出資した財産の価額
四 第六十三条第一項の規定による払込みの取扱いの場所
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
2 発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、第三十六条第一項に規定する期日後でなければ、前項の規定による通知をすることができない。
3 第五十七条第一項の募集に応じて設立時募集株式の引受けの申込みをする者は、次に掲げる事項を記載した書面を発起人に交付しなければならない。
一 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
二 引き受けようとする設立時募集株式の数
4 前項の申込みをする者は、同項の書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、発起人の承諾を得て、同項の書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該申込みをした者は、同項の書面を交付したものとみなす。
5 発起人は、第一項各号に掲げる事項について変更があったときは、直ちに、その旨及び当該変更があった事項を第三項の申込みをした者(以下この款において「申込者」という。)に通知しなければならない。
6 発起人が申込者に対してする通知又は催告は、第三項第一号の住所(当該申込者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を発起人に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。
7 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
| 会社成立前又は議決権行使前 | 会社成立後又は議決権行使後 | |
|---|---|---|
| 錯誤・詐欺・強迫 | 〇(51Ⅱ、102Ⅳ) | ×(51Ⅱ、102Ⅳ) |
| 意思無能力 行為能力の制限 詐害行為取消 | 〇 | 〇 |
| 心裡留保 | ×(51Ⅰ、102Ⅲ) | × |
| 通謀虚偽表示 | ×(51Ⅰ、102Ⅲ) | × |
(6)株式の割当て
発起人は、申込者の中から設立時募集株式の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる設立時募集株式の数を定めなければなりません。どの申込者に対し何株を割り当てるかの決定は発起人が自由に決定し得る「割当自由の原則」が基本です。割当ての決定により、株式申込人は株式引受人となります(62①)。また仮設人名義で引き受けた者、他人の承諾を得ずに他人名義で引き受けた者は、株式引受人としての責任を負います。また、他人と通謀して他人名義で引き受けた場合、その他人も連帯して払込義務を負いますが、この場合も実質上の引受人、すなわち名義借用者が引受人であるとするのが判例(最判昭42.11.17/百選〔8〕)です。
実務では、株式の申込みに当たって、払込金額と同額の申込証拠金を添えることが条件とされるのが通常である。判例は、かかる条件をつけることも必要性があり、不当とまではいえないとした。
仮設人名義等が使用されたため、真の申込者が誰かに関し錯誤に陥って発起人が株式を割り当てた場合、発起人(会社)が当該引受人の権利行使を拒めるか否かにつき、江頭先生は、定款により譲渡制限をした株式については、会社成立後も同人の権利行使を拒めると解すべきであるが、それ以外の株式については、創立総会後は錯誤を理由に割当ての無効を主張できない(102IV参照)とされています(江頭・92頁)。
(7)出資の履行
設立時募集株式の引受人は、設立時募集株式と引換えにする金銭の払込みの期日又はその期問内に、発起人が定めた銀行等の払込みの取扱場所において、それぞれの設立時募集株式の払込金額の全額の払込みを行わなければなりません(63Ⅰ)。また、設立時募集株式の引受人は、上記の払込みをしないときは、当然に(発起人の場合と異なり、失権手続を要しない)「当該払込みをすることにより設立時募集株式の株主となる権利」を失います(63Ⅲ)。
(8)検査役の調査等
定款で変態設立事項を定めた場合、現物出資・財産引受における例外的な場合(33X各号)を除いて、その事項を調査させるために、発起人は、検査役の選任を裁判所に申し立てなければなりません(33Ⅰ)。(9)創立総会
募集設立の場合、設立時募集株式の払込期日または払込期間の末日のうち最も遅い日以後、遅滞なく、発起人は、創立総会を招集しなければなりません(65Ⅰ)。創立総会がなす主要なことは、設立に関する事項のチェックと設立時役員等の選任である(87Ⅰ、88、93Ⅰ、II等)。また、定款を変更することもできるのです(96)。
なお、設立しようとする会社が種類株式発行会社である場合には、一定の定款変更について、ある種類株主全員の同意又は種類創立総会の決議が必要となります(99?101)。
(10)設立登記(49)
発起設立の場合と同様である。| 創立総会 | 種類創立総会 | 株主総会 | ||
| 議決権行使 | 議決権の代理行使 | 〇(74Ⅰ、86、310Ⅰ) | ||
| 代理人の人数の制限 | 〇(74Ⅴ、86、310Ⅴ) | |||
| 議決権の不統一行使 | 〇(77、86、313) | |||
| 累積投票 | 〇(89) | × | 〇(342) | |
| 書面による議決権行使 | 〇(67Ⅰ③、75、86、298Ⅰ③、311)* | |||
| 電磁的方法による議決権行使 | 〇(67Ⅰ④、76、86、298Ⅰ④、312) | |||
募集設立の存続
会社法が制定される際、有限会社法には募集設立に相当する規定がないため、株式会社と有限会社を一体化するにあたっては両者の設立手続を調整する必要があること等を理由として、募集設立の制度は廃止すべきであるという主張が有力に存在していました。しかし発起設立のみとなると、発起人には株式引受人よりも重い責任が課せられているため、発起人としての責任を負わないことを望む者が存在する等の理由から募集設立の制度は維持されました。