世界経済にまたしても激震が走りました。2019年5月30日、アメリカのトランプ大統領が突如としてメキシコに対する追加関税の導入を発表したのです。理由は「不法移民対策が不十分だから」というものですが、この決定は単なる政治的な駆け引きを超え、私たちの生活や経済に深刻な影響を及ぼす可能性があります。ホワイトハウスの発表によれば、2019年6月10日からメキシコからの全輸入品に対して5%の関税を課し、対策が進まなければ最大で25%まで引き上げるとしています。
このニュースが報じられるやいなや、SNS上では驚きと不安の声が爆発しました。「またトランプ砲か」「これから車の値段が上がるの?」「日本の自動車メーカーの株価が心配」といった投稿が相次ぎ、投資家だけでなく一般消費者も動揺を隠せません。実際、メキシコのロペスオブラドール大統領はすぐに書簡を発表し、「対立は望まない、対話で解決すべきだ」と冷静な対応を呼びかけていますが、トランプ大統領の怒りは収まる気配がありません。
焦るトランプ政権、背景にある「壁」の建設難航
なぜ今、これほど強硬な手段に出たのでしょうか。その背景には、トランプ大統領の看板政策である「国境の壁」建設が思うように進んでいないという苛立ちがあります。大統領権限で国防予算を転用して建設費を捻出するという奇策に出ましたが、2019年5月24日にカリフォルニア州の連邦地方裁判所がこれを一部差し止める仮命令を下しました。2020年の大統領選挙が迫る中、公約実現が危ぶまれる事態に、トランプ氏は焦りを感じているのでしょう。
世論調査の結果もこの強硬姿勢を後押ししています。米紙の調査によれば、壁建設を支持する声は共和党支持者の間で87%にも達しており、トランプ氏にとって不法移民対策は、再選に向けた絶対に譲れない「一丁目一番地」なのです。しかし、これまで寛容だったメキシコ政府も対策を強化しているものの、グアテマラ国境など現場の警備は手薄で、移民の流入は止まっていません。このジレンマを打破するために、経済制裁というカードを切った形です。
自動車産業を襲う「サプライチェーン」の危機
今回の関税措置で最も懸念されるのが、自動車産業への壊滅的なダメージです。ここでキーワードとなるのが「サプライチェーン(供給網)」です。これは、製品の原材料調達から製造、配送、販売に至るまでの一連の流れを指します。米国とメキシコはNAFTA(北米自由貿易協定)の下、関税ゼロを前提に複雑に入り組んだ供給網を築いてきました。驚くべきことに、一台の自動車が完成するまでに、部品が国境を5回も6回も行き来することさえあるのです。
もし関税が発動されれば、部品が国境を越えるたびにコストが雪だるま式に膨れ上がることになります。これは単なる値上げでは済まされません。日本の自動車メーカーもメキシコを対米輸出の重要拠点としており、その影響は甚大です。米中貿易摩擦を避けて中国からメキシコへ生産拠点を移した企業にとっては、まさに「逃げた先での悪夢」と言えるでしょう。米国にとってメキシコは中国に次ぐ第2の輸入相手国であり、その経済的な結びつきは切っても切れない関係にあるのです。
編集部の視点:政治目的の関税利用は危険な賭け
今回の措置について、私は極めて危険な先例になると危惧しています。トランプ政権は今回、「国際緊急経済権限法」という法律を持ち出し、不法移民という「安全保障上の問題」を理由に、貿易制限を正当化しようとしています。しかし、本来は外交交渉や国境警備で解決すべき政治問題を、関税という経済ツールを使って相手国を恫喝するやり方は、世界貿易機関(WTO)のルールに抵触する可能性が高いでしょう。
同盟国や隣国に対して、予測不能なタイミングで制裁をちらつかせる手法は、世界経済全体の信頼を損ないます。目先の選挙対策のために、長年築き上げてきた北米の経済システムを人質に取るようなやり方は、最終的に米国の消費者や企業の首を絞めることになるのではないでしょうか。2019年6月10日の発動期限までに、両国が建設的な対話によって回避策を見出せるのか。私たちは固唾を呑んで見守る必要があります。