キャッシュレス社会の未来像と課題:消費者啓発とセキュリティ対策:キャッシュレス普及の鍵を握る要素とは

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我が国は2018年に「キャッシュレス・ビジョン(2018)」を発表し、キャッシュレス決済の普及を目指してきました。当時のキャッシュレス決済比率が低かったため、「2025年6月までに4割程度」を目指し、将来的には80%を目指す取り組みを行ってきました。新型コロナウイルスの影響でオンライン消費が増加し、キャッシュレスの利用が拡大しています。2018年のキャッシュレス決済比率が18.4%から、2021年には32.5%に上昇し、順調に普及しています。店舗では80%がキャッシュレス決済手段を導入しており、キャッシュレスの普及は着実に進んでいます。

今後のキャッシュレス決済の普及には、量的な要素だけでなく質的な要素にも注目し、「キャッシュレス決済による付加価値の向上」が重要です。技術の進化により、顔認証や無人店舗などの新しい決済サービスが登場し、より便利でスムーズな消費体験が可能になっています。政策面でもデジタル化が推進され、キャッシュレスの意義が広がっています。

今後のキャッシュレス決済の普及には、既存の取組の改善だけでなく、社会全体のデジタル化を考慮し、キャッシュレスの将来像を見直すことが重要です。本記事では、検討会や他国の事例を踏まえ、キャッシュレスの推進に貢献する方策を幅広く提案しています。今後は、これらの提案を基に実現可能性や効果を検討し、キャッシュレスの発展に向けてさらなる議論が進められるでしょう。



コンテンツ

日本のキャッシュレス決済市場の現状と展望

図表.1 世界各国のキャッシュレス比率と(左)と日本のキャッシュレス支払額及び比率の推移(右
日本におけるキャッシュレス決済の現状は、毎年確実に上昇を続けており、2021年の比率は32.5%に達しました。しかし、海外では60%以上の国もあり、我が国の伸びにはまだまだ追いついていない状況です。

2021年のデータでは、コロナ禍にも関わらず、クレジットカードやデビットカード、電子マネー、コード決済など全ての決済手段で伸びが見られました。特にコード決済が大きく伸び、デビットカードを上回る規模にまで成長しています。

クレジットカードが全体の約87%を占める中、キャッシュレス決済回数も右肩上がりで増加しており、2021年には250億回を超える決済回数を記録しました。日本のキャッシュレス決済は着実に進化を遂げており、今後も成長が期待されます。



消費者のキャッシュレス利用頻度に応じた課題と解決策


キャッシュレスを取り巻く環境は大きく変化しており、消費者のライフスタイルの変化や新たな技術の進展、社会全体でのデジタル変革という3つの要素が重要です。これらの変化を捉え、より時代に即したキャッシュレスを推進していくことが不可欠です。報告書では、キャッシュレスの社会的意義や目指す社会、施策の方向性を示し、社会・技術・政策的変化を踏まえて新たな方向性を提案しています。

消費者の動向はスマートフォンの普及により変化しており、モバイル端末を活用した決済サービスが拡大しています。キャッシュレス普及のみならず、決済と他のサービスの融合に注力し、データの適切な保護と利活用、加盟店にも付加価値の高いサービス提供が重要です。

技術面では、AI技術や認証技術の進化が顕著で、利便性と安全性の両立を図る取り組みが進んでいます。顔認証やハンズフリー決済などのサービスも登場し、よりシームレスな決済体験が実現されつつあります。また、データやAIを活用した付加価値提供が進み、将来像ではCBDCやメタバースなどの新たな変化にも注目が必要です。

政策面では、我が国のデジタル化推進が進んでおり、キャッシュレスも含めた広義の価値を再定義し推進していく必要があります。キャッシュレス化は小売店だけでなく、個人・事業者・行政機関の関係性全体を捉えた推進が求められています。政府のデジタル化政策も重要な視点となります。



消費者と加盟店のキャッシュレス利用動向を分析


我が国におけるキャッシュレスの実態を把握し、今後のキャッシュレスの普及促進に向けた消費者向け及び加盟店向けの施策を考えるために、定量・定性両面から消費者と加盟店の動向を分析しました。消費者におけるキャッシュレスの利用状況についてのWeb調査やインタビュー調査を通じて、キャッシュレスの普及実態や消費者の利用動向を把握しました。調査結果から、日常生活でキャッシュレスを積極的に利用する層や利用頻度に応じた支払手段の傾向が浮かび上がりました。

キャッシュレス利用の全体像を見ると、日常生活でキャッシュレスを積極的に利用する人が増加しており、特にクレジットカードや電子マネーを含めたキャッシュレス決済の割合が上昇しています。業種業態別の分析では、一部の業種ではキャッシュレス決済が利用できないとの認識がありますが、スーパーやコンビニなどではキャッシュレス決済が利用できるイメージが高いことが示されました。

さらに、支払い金額や業種によって支払手段の選択に差異が見られ、低単価の決済では現金の利用が多く、高単価の決済ではクレジットカードや口座振込が増える傾向があります。不正対策やキャッシュレスに対する不安要素についても調査し、消費者への周知広報が重要であることが示唆されました。

今後のキャッシュレス決済普及促進に向けた取り組みとして、業種ごとの特性や消費者のニーズに合わせた施策が必要であることが示唆されました。キャッシュレスの利用を促進するためには、消費者と加盟店の両面からのアプローチが重要であり、安心・安全な利用環境の整備や利便性の向上が求められます。



キャッシュレスの普及を促進するための取り組みと課題


キャッシュレスの普及を促進するには、利用者にとって手軽な決済手段を推進する必要があります。タッチ決済やコード決済などがその具体例であり、これらの普及には加盟店の拡大やクレジットカードの認知促進が効果的です。また、少額決済においては、導入が進んでいない業種では加盟店へのメリットや手数料競争環境の整備が重要です。さらに、決済事業者の収益性を確保するためにはネットワークやインフラの対応も必要です。また、「現金層」については、金融包摂の観点からキャッシュレスへの移行を促す取り組みが重要です。

消費者のインタビューから得られた知見に基づき、キャッシュレス利用のきっかけや使い分け、現金利用の理由、キャッシュレス利用への不安などが明らかになりました。これを踏まえて、利用促進政策や広報内容を検討する際の示唆として、利得性や利便性、セキュリティ対策の重要性、社会的意義などが挙げられます。

調査結果や業種別のキャッシュレス利用率に関する意見から、キャッシュレス決済の普及状況や課題が明らかになりました。特に、消費者の利便性や店舗側のメリット、セキュリティ対策の重要性などが強調されています。さらに、タッチ決済の認知拡大や少額決済における取り組みの必要性、電子レシートの導入効果などが提案されています。キャッシュレス利用の促進に向けて、消費者教育や業界全体の取り組みが求められています。



キャッシュレス導入メリットを最大化する方法とは?


2022年度のWeb調査データをもとに、店舗のキャッシュレス導入状況やその効果について分析が行われました。中小店舗ではキャッシュレスの導入率が80%となっており、クレジットカードやコード決済、電子マネーなどの導入率には差があります。特に、平均決済単価が低い店舗ではキャッシュレス導入率が低く、導入理由としては「機会損失の回避」が挙げられています。

一方で、導入した店舗の約半数が「特に効果やメリットがない」と回答し、効果を感じていない実態が浮かび上がりました。キャッシュレス導入理由によるメリットを感じる割合も異なり、明確な効果を期待して導入した店舗ほどメリットを感じやすい傾向があります。

店舗の売上に占めるキャッシュレス比率が重要で、売上に占める比率が高い店舗ほど導入のメリットを感じやすいことが分かりました。キャッシュレス導入効果を感じるためには、店舗のキャッシュレス比率を高めることや消費者にメリットを周知することが重要です。

加盟店経営者へのインタビューでは、POS/会計システムと連動させて業務効率化を図る例が多く見られました。手数料については、一定の納得感はあるものの、手数料率の低下や資金繰りの重要性が課題として挙げられています。店舗側がキャッシュレス導入の効果を正しく理解し、定期的に確認することが、キャッシュレスの活用につながるでしょう。



キャッシュレス決済の普及促進に向けた消費者向け施策の重要性

ャッシュレス推進の社会的意義
足元のキャッシュレス決済比率向上に向けた施策の方向性について、消費者および加盟店に対する実態調査結果を踏まえた示唆と導出された施策の方向性を整理しました。

消費者向けの普及拡大施策では、現金利用層に親和性の高いプリペイド型キャッシュレスや支出管理機能の重要性を伝えることが重要です。また、店舗でのキャッシュレス利用が増えるほどメリットを感じやすくなることを消費者に伝える必要があります。さらに、フリクションレスな決済手段の推進や定常的な入金促進など、キャッシュレスの利用拡大に向けた施策が必要です。

加盟店向けの施策では、低決済単価店舗でのキャッシュレス導入の重要性やキャッシュフローの把握と効率化の視点が強調されています。また、キャッシュレス導入のメリットを理解し、手数料の低減や経営改善につながるサービスの普及が求められています。加盟店に対しては、税理士等との連携や決済データ活用による売上増促進など、具体的な支援策が提案されています。

これらの施策を通じて、キャッシュレスの普及促進に向けた消費者と加盟店の両面からの取り組みが重要であり、キャッシュレスの利便性や安全性を広く認知し、利用拡大を促進していくことが求められます。



消費者向けキャッシュレス決済の安全性と情報管理に関する啓発活動


キャッシュレスの将来像に関する検討会の報告書によると、キャッシュレスの普及を促進するためには、消費者や加盟店に対する周知広報が重要であるとされています。消費者向けの周知広報では、現金主義の層やキャッシュレス・現金併用層をターゲットに、キャッシュレス決済の安全性や店舗へのメリットを周知することが提案されています。特に、消費者に対してセキュリティ対策に関する情報をわかりやすく伝えることが重要であり、アニメーション動画などを活用したアプローチが求められています。

加盟店向けの周知広報では、キャッシュレス決済導入のメリットや加盟店手数料に関する情報公開が重要であるとされています。特に、加盟店がキャッシュレス決済を導入した際に明確な目的を持つことが、メリットを実感しやすいことが報告されています。加盟店に対しても、キャッシュレス決済による決済スピード向上や顧客サービス向上などのメリットを周知することが重要とされています。

さらに、キャッシュレスの安全性や利用者自身の情報管理についても周知広報が必要であり、先端技術による取引認証や不正取引検知技術などのセキュリティ対策についても消費者に理解を深めてもらう必要があるとされています。キャッシュレスの普及を促進するためには、消費者と加盟店の双方に対して適切な情報提供と啓発活動が重要であるということが報告書から示唆されています。



キャッシュレス決済の未来像と課題の解決策

図表16. キャッシュレス推進の社会的意義(概念図)
キャッシュレスの特徴は、現金を使わずに取引できることで、物理的な制約から解放される点が魅力です。例えば、デジタル上での決済は物理的なお金の製造や保管、取引にかかる時間や空間、情報量に関する制約を取り除きます。

現金を使う取引では、紙幣や硬貨の管理に時間がかかりますが、キャッシュレス化により取引時間が短縮され、スピーディーな取引が可能になります。また、取引場所に制約がある現金取引とは異なり、キャッシュレスではデジタル上での決済が可能なため、取引の空間に制約がなくなります。

さらに、キャッシュレスでは取引に関する情報量にも解放がもたらされます。デジタル上での取引履歴の確認が容易であり、多様な情報を活用できる社会を実現します。これらの特徴を踏まえると、キャッシュレスの持つ情報量からの解放は今後ますます重要性を増すでしょう。

キャッシュレスの姿を考える際には、物理的な紙幣や硬貨を使わずに決済できるだけでなく、社会全体のデジタル化における取引プロセス全体を考慮する必要があります。例えば、企業間取引においても請求書から精算まで全てがデジタル化され、自動的に処理される状態が望ましいとされます。消費者が小売店での決済を行う際も、デジタルデータに基づいてスムーズに決済が行われる仕組みが既に実現されています。

このように、望ましいキャッシュレスの姿は、取引全体がデジタル化され、自動的な精算処理が行われる状態を指します。事業者間の決済においても同様に、デジタル化された取引プロセスが円滑に進行し、自動的な代金のやり取りが行われることが理想的です。このような状態が実現されることで、キャッシュレスの利便性と効率性がさらに向上するでしょう。



消費者の利便性向上を実現するキャッシュレス化のメリット


キャッシュレス推進の社会的意義は、消費者の利便性向上や社会全体のインフラコスト削減に貢献することが重要視されています。キャッシュレス化によって、既存の課題を解決し、新たな未来を創造するという2つの方向性で社会的意義が考えられています。消費者の利便性向上や現金決済に伴うインフラコストの削減、業務効率化や人手不足への対応、公衆衛生上の安心の実現、現金の保有や取引機会の減少による不正や犯罪の抑止などが、キャッシュレス推進の社会的意義として挙げられます。

キャッシュレス化による「消費者の利便性向上」では、支払いの簡素化やスピードアップが可能となり、買い物や個人間取引における手間やストレスを軽減します。また、家計管理も効率的に行えるようになります。一方、「現金決済に係るインフラコストの削減」では、現金の製造や管理にかかるコストを削減し、キャッシュレス決済のインフラコストを最適化する課題も浮上しています。

さらに、「業務効率化や人手不足への対応」では、現金取引に伴う業務負担を軽減し、店舗や事業者の効率化を図ることができます。同時に、「公衆衛生上の安心の実現」では、非接触での取引が感染症リスクを軽減し、消費者の安心を確保します。また、「現金の保有や取引機会の減少による不正や犯罪の抑止」では、キャッシュレス化による取引の透明性やセキュリティ強化が不正行為を抑制する効果が期待されます。

キャッシュレス推進は、社会全体の利便性や安全性を向上させる重要な取り組みです。キャッシュレス化によって、現金社会に潜む課題を解決し、新たな未来を切り拓くことが期待されています。



キャッシュレス決済の普及促進に向けた取り組み


キャッシュレスの推進は、消費者の利便性向上や社会全体のインフラコスト削減に貢献する重要な意義を持っています。これには、消費者の利便性向上や現金決済に伴うコスト削減、業務効率化、公衆衛生の安心確保、不正や犯罪の抑止などが含まれます。

キャッシュレス化によって、消費者は財布を持ち歩く手間や現金管理のストレスを軽減し、支払いをスピーディーに行うことができます。また、現金の発行や管理にかかるコストを削減し、業務効率化や人手不足への対応を促進します。さらに、非接触での決済が感染症リスクを軽減し、不正や犯罪を抑止する効果も期待されます。

キャッシュレス化は、現金社会における課題解決に大きく貢献します。消費者の利便性向上や現金決済に伴うインフラコスト削減、業務効率化、公衆衛生の安心確保、不正や犯罪の抑止など、様々な社会的意義があります。特に、キャッシュレス化によって、現金の保有や取引機会の減少による不正や犯罪の抑止効果が期待されます。これにより、安全で効率的な社会を実現する一助となるでしょう。



キャッシュレスの未来像を探る:データ連携とデジタル化の重要性

図表24. キャッシュレス推進の社会的意義
キャッシュレスの推進には、社会的な意義として「新たな未来を創造する」という価値があります。この取り組みにより、データ連携やデジタル化が進み、多様な消費スタイルが生まれることが期待されています。

データ連携とデジタル化によるメリットは大きく、キャッシュレス決済によって取引記録が正確にデータ化され、個人や事業者、行政機関間で連携されることで付加価値の高いサービスが生まれます。このデータを活用することで、消費行動の見直しや環境への配慮など、個人や事業者、行政機関が新たな利益を享受できる可能性があります。

また、キャッシュレス化は消費スタイルの多様化にも貢献します。デジタルサービスとの組み合わせにより、新たな消費スタイルが生まれ、国際的な決済手段によって訪日外国人の消費を促進することも期待されます。さらに、非金融事業者が金融サービスを組み込むEmbedded Financeやデジタルコミュニティーにおける消費の場の形成など、キャッシュレスが様々な分野で重要な役割を果たしています。

キャッシュレス化はまた、脱炭素社会の実現にも寄与します。現金の製造や流通に伴うCO2排出を削減し、消費に伴うCO2排出量の可視化を推進することで、2050年のカーボンニュートラルを目指す政策に貢献することが期待されます。キャッシュレス化によるCO2削減効果は、直接的な効果だけでなく、データ利活用による間接的なCO2削減も期待され、個人の行動変容を促すことで社会全体の環境負荷を軽減する可能性があります。

キャッシュレスの推進は、新たな未来を切り拓く重要な取り組みであり、データ活用や消費スタイルの変革、そして環境への配慮を通じて、より持続可能な社会の実現に向けた一歩となるでしょう。



キャッシュレス決済の利便性と課題

図表26  キャッシュレス化における社会的な課題
キャッシュレス化の推進には多くの社会的意義がありますが、同時に解決すべき課題も存在します。ユーザービリティ、インフラコスト、加盟店負担、不正利用という4つの課題が挙げられます。

現在、キャッシュレス決済の利便性はすべての状況で確保されているわけではなく、災害時やデジタルリテラシーが必要な点など課題があります。インフラコストも低減されておらず、加盟店には導入や運用に伴う負担があります。

さらに、不正利用も増加しており、AIやデータ分析技術を活用した対策が必要です。キャッシュレスの推進には社会的課題の解決も欠かせず、改善に向けた取り組みが重要です。



デジタル社会への進化:キャッシュレスの将来展望

図表28. キャッシュレスの目指す姿  現状に対する変化
キャッシュレスが目指す社会像を考えると、現在の取り組みと将来の展望には明確な違いがあります。現在はキャッシュレス決済が広く認知され、利用が拡大されていますが、将来を見据えると、支払いを意識せずに決済が行われ、データがシームレスに連携されるデジタル社会が目指されています。

これは、個人と事業者だけでなく、個人同士や行政との経済活動も含めた広範な関係性にキャッシュレスが拡大し、安全性と利便性のバランスが取れた決済手段が普及することを意味します。

また新たな付加価値としては、業務効率化だけでなくデジタル化や多様な消費スタイルの創造が重要視され、テクノロジーやデータ連携、イノベーションが将来の社会を支える要素となります。認証技術やデータ分析技術の進化、データ連携の拡大、業界を超えた連携、技術やビジネスモデルのイノベーションがキャッシュレス社会の未来を切り拓く重要な要素となるでしょう。

このような未来像が実現することで、個人は利便性だけでなく日常生活の豊かさを、事業者は業務効率化だけでなくイノベーションを、行政機関は業務効率化だけでなくより価値ある政策の実現を可能にするでしょう。



キャッシュレス社会の実現に向けた重要な一歩:個人・事業者・行政の関わり

キャッシュレス社会の目指す姿は、「3つのステークホルダー」の視点から検討する
キャッシュレスが目指す社会を個人・事業者・行政機関の視点から考察します。個人にとっては、日常生活の豊かさを実現し、支出や家計状況をリアルタイムに把握できるスマートな消費が可能となります。事業者はイノベーションを促進し、決済データを活用して事業戦略を立案できます。行政機関は、効率的な活動を実現し、価値ある政策を推進します。個人視点では、決済のシームレスさやパーソナルデータの活用が個人の行動変容を促進します。

個人と事業者の関わりでは、購買や家計管理、日常行動において、自動的な支払いやリアルタイムな情報把握が実現されます。将来像では、決済データの活用が進み、個人のニーズに合わせたサービスが提供されるでしょう。個人と個人の関わりでは、デジタルコミュニティーにおける相互取引が促進され、トークンを用いた支援やコンテンツの取引が活発化します。

個人と行政機関の関わりでは、窓口手続きや給付金の受取、納税・寄付においてデジタル化が進み、手続きの簡素化や自動化が実現されます。将来では、行政と個人の間でのデータ連携がスムーズに行われ、効率的なサービス提供が可能となるでしょう。こうした変化が、キャッシュレス社会の実現に向けた重要な一歩となるでしょう。



キャッシュレス社会における事業者の革新とデータ活用

図表35. キャッシュレスの目指す姿 | 事業者視点
将来のキャッシュレス社会では、事業者にとっては革新を促す要素となることが期待されます。決済関連業務の簡素化や効率的な事業活動の実現だけでなく、事業者はデータを活用して事業の実態を把握し、戦略を立案することが可能になります。さらに、決済データと結びついたデータは、事業者の革新を促す要素となるでしょう。

事業者と個人(消費者/顧客)との関わりにおいて、キャッシュレスの現状と目指す姿を考えてみましょう。販売の場では、自動的な決済が可能な状態を目指し、財務会計/管理会計ではリアルタイムな情報が確認できる状態を目指します。また、事業戦略の立案においては、顧客データの活用を通じて効果的なマーケティング施策を展開することが重要です。これらの取り組みは、事業者の業務効率化や付加価値の創出につながるでしょう。

次に、事業者と事業者との関わりにおいて、キャッシュレスの現状と目指す姿を考えてみましょう。社内の請求/支払や社外との取引における請求/支払、そしてデータの活用に焦点を当てます。これらの分野において、デジタル化による業務効率化や自動化が進むことで、事業者間の取引がスムーズに行われるようになるでしょう。例えば、アメリカのB2B決済プラットフォーム「Paystand」では、効率的な支払いプロセスが実現され、業務の効率化が図られています。

最後に、事業者と行政機関との関わりにおいて、キャッシュレスの現状と目指す姿を考えてみましょう。行政機関との窓口手続きや給付金の受取、納税においてもデジタル化が進むことで、手続きの簡素化や効率化が期待されます。例えば、デジタルデバイスを活用した手続きにより、行政手続きがスムーズに行われるようになるでしょう。これにより、事業者と行政機関との関係性もより効率的になるはずです。



キャッシュレス社会における行政業務の効率化とデータ活用

図表40. キャッシュレスの目指す姿  行政⇔個人 事業者
将来のキャッシュレス社会では、行政機関にとっては、効率的な業務を実現し政策の立案・実行を支援する「価値ある政策を実現できるキャッシュレス」が目指されます。行政活動において、決済を気にすることなく活動できる状態や、データを活用した政策の立案・実行が求められます。

行政視点で見る個人や事業者との関わりにおけるキャッシュレスには、行政手続き、公会計、政策立案・実行というシーンごとに目指す姿があります。行政手続きでは、国民や事業者がアクションを取るだけで自動的に認証や決済が行われる状態や、税金の徴収や支援金の給付が自動で実施される状態を目指します。

公会計では、全ての口座や資産の状況が一貫して確認できる状態や、入出金の実績や予定がリアルタイムで確認できる状態を目指します。政策立案・実行では、個人や事業者の支払い情報を活用し政策の実態や費用対効果を客観的に評価できる状態や、過去の政策評価に基づき新たな政策を立案できる状態を目指します。

イギリスの行政機関向け決済プラットフォーム「Government UK pay」は、行政機関の業務効率化を実現し、Covid-19下での寄付などをスムーズに行うことができる事例として挙げられます。行政機関の担当者が支払リンクを発行し、オンラインで支払いを受けることで、業務の効率化やスムーズな寄付が可能となりました。



デジタル化の促進がもたらすキャッシュレスの展望と期待


有識者検討会では、キャッシュレスのビジョンがB2Cに留まらず、他の分野への展開が重要視されています。デジタル化の促進により、キャッシュレスが自然な流れとして進むことが期待されています。さらに、キャッシュレスの推進が他の産業のイノベーションを促す重要性が強調されており、業界間の協力が不可欠です。

個人事業主の存在や事業者・個人・行政の連携が、地域の活性化や利便性向上につながる可能性も示唆されています。キャッシュレスの目指す姿として、支払を意識せずに生活できる環境を実現し、テクノロジーの進化が事業構造の変化を促すことが期待されています。

また、キャッシュレス化が経済に与える影響や個人情報の取り扱いについても慎重な議論が求められています。政府や民間の連携により、キャッシュレスの普及と経済成長を両立させるための取り組みが必要です。



商品の表示順位の透明性・公正性を保つ

図表42. 個人 事業者間の新指標の検討方向性
キャッシュレスの進捗を測る指標として、「キャッシュレス・ビジョン(2018)」において「キャッシュレス決済比率」が設定されました。当初の背景は、我が国のキャッシュレス決済比率が他国に比べて低く、迅速な施策と目標設定が必要とされたからです。現在の算定式では、民間最終消費支出を分母とし、クレジットカードや電子マネーなどを分子に用いています。ただし、口座振込や自動引落も含まれるキャッシュレスの定義の信頼性の問題から、これらは指標には反映されていません。

2023年現在のキャッシュレス決済の状況を考慮すると、より現実的なKPIの設定が求められており、昨年度検討された新指標の方向性を引き継ぎ、具体的な情報取得の実現可能性を含めて新たな指標が設計されました。

2022年度の検討では、現行指標での目標を維持しつつ、消費者の実感に即した新指標を算出・公表することが提案されました。金額比率の調整、決済回数、アクセプタンス・消費者の利用拡大の3つの観点から新指標設定の方向性が示されました。金額比率の調整においては、指標算定式の再定義や課題の明確化が行われ、決済回数については消費者の利用実態に即した指標として検討が継続されることが提案されました。アクセプタンス・消費者の利用拡大については、正確なデータ把握の困難性から新指標には含まれていません。

金額比率の調整に関する昨年度の検討では、銀行引落やプリペイドカード、電子マネーの利用分などが算入されていない課題が指摘されました。これらの課題を踏まえ、今年度の検討ではより精緻な指標設計が行われました。



キャッシュレス指標の改善と課題解決に向けた取り組み

図表42. 個人 事業者間の新指標の検討方向性  図表44. 新指標における現状のキャッシュレス比率(概算)
新しい指標の開発において、2025年以降のキャッシュレスの進捗を測定するために、金額ベースでの考え方を基に、分子と分母の見直しを行いました。分母には「家計最終消費支出」を採用し、これまでの国際比較に用いられていた「民間最終消費支出」から変更しました。

また、分子には従来の「クレジットカード支払額」と「デビットカード支払額」に加えて、「電子マネー支払額」と「コード決済支払額」を取り入れ、さらに口座振替も含めました。これにより、交通利用やプリペイドカードなども考慮され、2021年のキャッシュレス比率が32.3%から新指標では54.0%に向上しました。

今後の指標の精緻化に向けて、銀行口座振替に関する課題や家賃支払いなどの分子と分母の整合性について検討が必要です。特に、住宅ローンや自動車ローンの支払いにおける二重計上のリスクや、家計最終消費支出に含まれる実態のない項目などに留意しながら、指標の正確性と信頼性を高める取り組みが求められます。これらの課題を解決するために、今後の検討が重要です。

指標の改善において、分母の「家計最終消費支出」には税金の納付額が含まれていない点や、分子には税金納付額が含まれていることなども留意が必要です。さらに、分子の各項目間の重複や支出実態のない項目の排除など、指標の精緻化を図るための取り組みが必要です。今後も指標の改善を進めながら、キャッシュレスの推進に向けた正確な評価を行っていくでしょう。



2025年までのキャッシュレス比率目標と施策

コード決済_電子マネーのチャージに関わる重複計上は排除する必要あり
2025年以降のキャッシュレスの進捗を測定するための新たな指標が検討されています。将来の世界では、現金を持たずに生活できるデジタル決済の普及を目指しており、新指標はその進捗を示すものと位置付けられています。

一方、2025年までに現行指標で40%のキャッシュレス比率を達成し、新指標の改定案を検討してさらなる進化を目指す方針です。海外比較も重要視されており、新指標には口座振替が含まれていますが、海外のデータ取得の難しさや法人決済の影響など、正確な比較が難しい側面もあります。そのため、海外比較可能な現行の算定式を参考にすることも検討されています。

有識者検討会では、指標の定義について議論が行われました。新指標には口座振替の影響や分母・分子の整合性が懸念されており、例えば自動車購入や住宅ローンなどの支払い方法による違いが指標に影響を与える可能性が指摘されています。

また、デジタル化やキャッシュレス化が進む中で、データのノイズや支払いの多様化に対応する必要性も指摘されています。指標の策定においては、日常の決済回数や金額だけでなく、企業・政府・個人の視点からキャッシュレス拡大を促進する領域を明確化することが重要視されています。国際比較や将来の高額決済を考慮した指標作成に向けた検討が続けられています。



キャッシュレス社会の未来を拓く施策とは?

図表47. 目指す姿実現の要件
キャッシュレスの未来を実現するための施策は、個人、事業者、行政、そして社会全体が一体となって取り組むことが不可欠です。目指す姿を具体化し、現状とのギャップを埋めるためには、国や関係者が連携し、着実に計画を実行していくことが肝要です。支出管理や業務効率化、付加価値の創出、基盤整備など、キャッシュレスの実現には様々な要素が必要です。

取引においては、支払者と受取者の間でスムーズな決済が行われることが重要であり、自動的かつ簡便な操作でリアルタイムな情報提示が行われるべきです。支払者が意識せずに正規な取引が認証され、即座に決済が完了する仕組みも必要です。

支出管理や業務効率化においては、取引から生じるデータを活用し、個人の家計管理や事業者の財務管理、行政の財政管理に役立てることが重要です。個人や事業者、行政機関の意向に合わせてデータをリアルタイムに連携させることで、効率的な管理が可能となります。

付加価値の創出では、決済データに加えて様々な情報を連携させ、個人の生活の豊かさや事業の革新、政策の実現に活用することが重要です。個人の購買データや行動データから価値を提供し、統計処理されたデータをリアルタイムに集約することで、全体像を把握できるようにします。

最後に、業種を超えたデータ連携や支出管理のための基盤整備が必要です。決済とデータを連携させる仕組みや、個人や事業者、行政に付加価値を提供するデータを提供できる体制が整備されることで、キャッシュレスの未来像が具体化されるでしょう。これらの要件が整備されることで、キャッシュレス社会の実現が一歩近づくと考えられています。



キャッシュレスの課題とは?現状と将来像を解説

図表49. 目指す姿実現の要件に対する現状課題(まとめ)
現在の課題は、目指す姿を実現するための10個の要件に対して、有識者のヒアリングを通じて整理され、抽出されています。

請求内容の提示に関しては、取引内容に基づき請求金額や支払情報がリアルタイムで提示される自動化や簡便な操作が必要です。しかし、現状では支払内容を確定し提示するプロセスが煩雑です。

支払実行においては、支払者が意識的な行動を取らずに認証され、決済がリアルタイムで完了することが求められます。しかし、現状では支払には意識的な行動が必要であり、認証技術や不正取引対策が不十分です。

個人の家計管理や事業者の財務管理、行政の行財政管理など、さまざまな領域でリアルタイムなデータ連携が必要ですが、現状ではその仕組みが不十分です。これらの課題を解決し、データ連携を促進することで、個人や事業者の活動をサポートし、社会全体の効率化やイノベーションを促進することができるでしょう。



決済業界の未来を拓くための重要なアクションとは?

図表50. 今後必要なアクションの方向性
キャッシュレスの将来像に向けた施策の方向性は、目指す姿を実現するために必要なアクションの方向性を明確に定義しています。取引の自動化・効率化、認証手段の高度化、決済データの活用強化、付加価値サービスの創出、そして事業者・行政DXの推進が重要です。

特に、キャッシュレスの推進においては、単なる決済手段の提供だけでなく、デジタル化されたオペレーションやシステム全体が必要です。データの活用が鍵となり、業界横断的な連携が不可欠です。キャッシュレスの普及を促進するためには、消費者や加盟店への周知・広報、競争環境整備が重要です。

また、付加価値サービスの開発や認証手段の進化も重要であり、2035年までに企業や行政のDX推進が進むことが期待されます。目指す姿を実現するためには、業界全体の協力が欠かせません。です・ます・でしょう。



金融教育の重要性:若年層へのキャッシュレス啓発活動


有識者検討会では、認証手段について、統一することでコスト削減の可能性がある一方、個々の好みに合わせた多様でセキュアな選択肢が重要だとの意見が出されました。決済手段と認証手段のバランスを取ることが重要であり、認証技術の進化により生活が変わる時代が訪れています。

データ連携においては、競争力を高めるために実務面の課題を解決し、データ活用を進める必要があります。金融教育においては、若年層への触れる機会を確保し、キャッシュレスに対する理解を深める取り組みが重要です。これらの取り組みがキャッシュレス社会の実現に向けて不可欠であると考えられています。



まとめ


キャッシュレスの将来像に関する検討会を通じて、キャッシュレス社会の展望や課題が明らかになりました。消費者向けの周知・広報活動や安全性に関する取り組みが重要であり、最新の不正用防止対策をわかりやすく伝えることが必要です。

加盟店においても、キャッシュレス決済のメリットを実感できる店舗が増える一方で、明確な導入目的が重要であることが示されました。特に中小店舗への普及促進において、消費者の安全性への不安を解消するための周知・広報が不可欠です。認証技術の進化やデータ連携の重要性が強調される中、セキュリティと利便性のバランスを保つことがキャッシュレス社会の発展に欠かせません。

金融教育においては、若年層への啓発活動がキャッシュレス理解の深化につながります。業界団体や決済事業者の連携による周知・広報活動が、キャッシュレス比率の引き上げやフルデジタル化の実現に向けて重要な役割を果たすでしょう。これらの取り組みが、キャッシュレス社会の未来を切り拓く礎となることは間違いありません。技術の進化と教育啓発の強化を通じて、安全で便利なキャッシュレス社会の実現に向けて、一層の努力が求められます。



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