【会社法】会社名義での取引する際に知っておきたい知識!法人の権利能力と法人格否認の法理

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ここでは、会社の法人性との関連で、会社が法律行為の権利義務の主体となり得るための「権利能力」と「法人格否認の法理」が重要となります。かかる法理の適用場面については争いがありますので、どのような場合に問題になるのかについて注意しましょう。



「法人」の意義


法人とは、自然人以外で権利義務の帰属主体であるものをいいます。会社はすべて法人であり、会社とその構成員とは別個の人格を有するのです。

法人であることによって、具体的に認められる効果としては、以下のものが考えられます。
① 法人自体の名において権利を有し、義務を負う(権利能力)
② 法人自体の名において訴訟当事者となる(訴訟当事者能力)

そして、③法人自体はどの範囲で責任を負うのかが問題になります。債務の引当てを責任といい、責任を負担するということは、つまりは強制執行されてしまうことだと考えておけばよいでしょう。

法人としての責任がどの程度独立しているのか、という点については、会社によって異なります。

会社法第3条(法人格)

会社は、法人とする。

責任財産の形成


まず、法人は個人の財産とは別個独立の責任財産を形成します。ここで責任財産とは、法人の借金の引当てになる法人自身の財産です。

つまり、原則として法人が1つの独立した権利義務の帰属主体である性質によって、「法人の財産」というものを考えることができます。法人は、この財産をめぐって他の自然人や他の法人と取引き(法律行為)等をして財産を増やしたりすることもできることになるのです。そして、この特徴はすべての会社に共通のものです。


排他性


法人の財産は法人のものであるから、たとえばその会社を構成します。

社員(出資者のこと)個人の債権者からは、会社財産が強制執行を受けることはありません(排他性)。

ただ持分会社の場合、社員の債権者は、持分会社の社員を退社させて、その持分から支払ってもらって満足を受けることができます(609)。

このように社員の持分に対して強制執行ができることは、会社財産に対しての強制執行を認めたことと同じであるから、持分会社においては、排他性はないことになります。

会社法第609条(持分の差押債権者による退社)

1  社員の持分を差し押さえた債権者は、事業年度の終了時において当該社員を退社させることができる。この場合においては、当該債権者は、六箇月前までに持分会社及び当該社員にその予告をしなければならない。
2 前項後段の予告は、同項の社員が、同項の債権者に対し、弁済し、又は相当の担保を提供したときは、その効力を失う。
3 第一項後段の予告をした同項の債権者は、裁判所に対し、持分の払戻しの請求権の保全に関し必要な処分をすることを申し立てることができる。
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社員の責任


法人が、債務を負担する場合においても、その債務は法人のみが負担し、法人の構成員は負担しません。さらに、その債務に対する責任も、法人の財産のみがこれを負担し、構成員個人の財産が負うことはありません。しかし、これは法人の純粋な理念型の場合であって、実際の法人においては法律によって修正が加えられています。

たとえば、合名会社は法人でありながら、その債務については構成員である社員自身も負担する(580Ⅰ)。合資会社の無限責任社員、有限責任社員も直接責任を負います(580Ⅰ)。これに対して、株式会社の株主又は合同会社の社員は、会社の債権者に対して直接に責任を負担しません(間接有限責任、104、580Ⅱかっこ書)。その代わり、設立時における現実の出資の履行が要求されています(34、578)。

会社法第580条(趣旨等)

1 社員は、次に掲げる場合には、連帯して、持分会社の債務を弁済する責任を負う。 一 当該持分会社の財産をもってその債務を完済することができない場合 二 当該持分会社の財産に対する強制執行がその効を奏しなかった場合(社員が、当該持分会社に弁済をする資力があり、かつ、強制執行が容易であることを証明した場合を除く。) 2 有限責任社員は、その出資の価額(既に持分会社に対し履行した出資の価額を除く。)を限度として、持分会社の債務を弁済する責任を負う。





会社の権利能力と権利能力の制限


会社は法人であり、原則として、自然人と同様に法律上の権利義務の主体となることができる一般的権利能力が認められます。しかし、会社が具体的に権利を取得し義務を負うことのできる範囲については、法人としての性質上、一定の制限があるのです。


性質による権利能力の制限


権利能力の中には、生命・身体に関する権利、身分上の権利義務といった、自然人であることが前提の権利義務があります。会社では、性質上自然人であることを前提とする権利義務を享有することはできません。


法令による権利能力の制限


会社の法人格は法令により付与されたものであるから、会社は法令による権利能力の制限に服することになります。

例えば会社が解散又は破産したときは、清算の目的の範囲でのみ権利を有し義務を負うのです。


会社法第476条(清算株式会社の能力)

前条の規定により清算をする株式会社(以下「清算株式会社」という。)は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす。

会社法第645条(清算持分会社の能力)

前条の規定により清算をする持分会社(以下「清算持分会社」という。)は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす。




目的による権利能力の制限


会社はその目的を定款に記載し(27①)、かつ登記しなければなりません(911Ⅲ①)が、この会社の目的により会社の権利能力が制限されるのでしょうか。法人は目的の範囲内において権利を有し、義務を負うとする民法34条が会社にも適用されるかが問題となります。

法が会社に法人格を認めたのは、会社が一定の目的の下に事業を営むことで社会的に価値のある有用な機能を果たすためであり、民法34条は法人一般に関する通則と考えられます。

よって会社にも民法34条が類推適用され、会社の権利能力はその目的の範囲内に制限されると解されるのです。

法人は一定の目的のために設立された組織であるから、その目的の範囲内においてのみ能力を有すると解するのが自然でしょう。

一般的に資本金拠出者や会社債権者は、会社財産が定款所定の目的のために会社財産が運用されることを期待しています。

もっとも権利能力の範囲を厳格に定款記載の目的そのものに限定するとすれば、取引安全を害し、かえって会社の目的を円滑・効率的に達成することが困難となります。

そこで「目的の範囲内」の行為とは、定款に定められた目的を遂行するうえで直接又は間接に必要な行為をも含み、その必要性の判断は、行為の客観的な性質に照らし抽象的に行うべきです。
会社法第27条(定款の記載又は記録事項)

株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店の所在地
四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
五 発起人の氏名又は名称及び住所

会社法第911条(株式会社の設立の登記)

1 株式会社の設立の登記は、その本店の所在地において、次に掲げる日のいずれか遅い日から二週間以内にしなければならない。
一 第四十六条第一項の規定による調査が終了した日(設立しようとする株式会社が指名委員会等設置会社である場合にあっては、設立時代表執行役が同条第三項の規定による通知を受けた日)
二 発起人が定めた日
3 第一項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 目的


判例 最判昭27.2.15/百選〔1〕

旧民法43条(現34条)が会社にも適用ないし類推適用され、会社の権利能力が目的により制限されることを前提として、「仮りに定款に記載された目的自体に包含されない行為であっても目的遂行に必要な行為は、また、社団の目的の範囲に属するものと解すべきであり、その目的遂行に必要なりや否やは、問題となっている行為が、…定款の記載自体から観察して、客観的に抽象的に必要であり得べきかどうかの基準に従って決すべきものと解すべきである」とした。



法人格否認の法理


「法人格否認の法理」とは、法人たる会社の形式的独立性を貫くと正義・衡平に反する結果となる場合に、特定の事案に限って会社の独立性を否定し、会社とその社員を同一視する法理です。

例えば、Aに対して多額の債務を負うBが、強制執行を避けるため全財産を出資してC株式会社を設立したような場合に「法人格否認の法理」が問題となります。


法人格否認の法理の肯否


会社は法人であり、会社と社員は法律上別個の人格です。しかし、会社設立に準則主義が採用され、比較的容易に会社が設立できる結果、法人格が形骸化している場合や、違法な目的達成のために法人格が濫用される場合があり、正義・衡平に反することもあります。

そこで、このような場合、法人格否認の法理により弊害を回避できないかが問題となるのです。

判例は、定款記載の目的に含まれない行為でも、目的遂行に必要な行為は、社団の目的の範囲に含まれるとしました。

このような考え方によれば、権利能力の範囲外とされることはほとんどなく、目的による権利能力の制限理論は判例により実質的に廃棄されているとする見解もあります。

判例最大判昭45.6.24/八幡製鉄事件

判例は、会社の政治献金について、「政治資金の寄附も、会社に対し期待ないし要請される限りのものは、会社にその能力がないとはいえない」とした。



法人格否認の法理は会社・株主の相手方を保護する制度であることからすれば、会社・株主の側に有利な同法理の主張は認められないとも思われます。しかし、法人格否認の「法理は既存の法理では妥当な結論が出ない場合につき事案の衡平な解決をはかるための最後の手段であり、したがって、画一的に、会社・株主の側に有利な同法理の適用は認められない等の理由で同法理の適用を排斥すべきではない」との意見もあります(江頭・40頁)。

そもそも法人格の付与は、社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであり、これを権利主体として実在させるに値すると認められる場合に法技術に基づいて行われるものです。

だとすれば法の目的を超えて法人格が不法に利用されている場合、すなわち、法人格が法の適用を回避するために濫用されている場合、及び法人格が全く形影化している場合には、その限度で法人格を否認することが、民法1条3項の趣旨に照らして妥当です。

もっとも法人格否認の法理は一般条項的性格を有するから、安易に適用すべきでなく、他の法律構成により得ない場合に、最後の手段として用いるべきでしょう。


制度的利益擁護型と個別的利益調整型


法人格の形骸化・濫用の2要件を通じ、法人格を否認すべき実質的理由は、2つに大別できます。

第1は、過小資本、会社搾取、会社・株主間の財産混同のように、もっぱら会社・株主間に起因する事情を要件とするタイプです。このタイプの法人格否認の場合、会社・株主側は法人格に基づく恩恵、たとえば有限責任をすべての会社債権者に対し制度的に対抗できません(「制度的利益擁護型」)。

第2は、外観信頼保護の必要のように、当該相手方を保護すべき個別事情を要件とするタイプです。このタイプの法人格否認の場合、まさに当該事案限りの否認である反面、効果としては和解契約、競業避止義務等の特定債務の拡張も生じ得ますから、合名会社等社員が無限貴任の会社にも適用される実益があります(「個別的利益調整型」)。

この2類型の区別は、効果の差異の他、法人格否認の法理の準拠法を考えるうえでも有益であるといえます(江頭・43頁)。

判例 最判昭44.2.27/百選〔3〕

判例は「社団法人において法人とその構成員たる社員とが法律上別個の人格であることはいうまでもなく、このことは社員が1人である場合でも同様である。しかし、およそ法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであって、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに、法的技術に基づいて行なわれるものなのである。従って、法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すベからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じるのである」として、法人格否認の法理を認めた。





法人格否認の法理の類型


法人格否認の法理が適用される場面として、判例は、①法人格が形骸にすぎない場合、②法人格が濫用されている場合を挙げています。学説では、このような場合に限られないとする見解や、このような類型化自体に反対する見解もあるが、このような判例の類型に従うのが一般です。

そこで、以下において、形骸化事例、濫用事例のそれぞれについて、その要件、具体的事案について検討します。


形骸化事例


法人とはいうものの、実質は社員の個人企業や親会社の一営業部門にすぎないような場合は、法人格が形骸化しているとされます。

法人格が形骸化しているどうかは、単にある社員が会社を完全に支配しているというだけでは足りず、次のような要素を考慮して判断されます(形式的形骸化論)。
① 業務活動混同の反復・継続
② 会社と社員の義務・財産の全般的・継続的混同
③ 明確な帳簿記載・会計区分の欠如
④ 株主総会・取締役会の不開催等、強行法的組織規定の無視

判例は、法人格が形骸にすぎない場合、法人格が濫用されている場合は、法人格の本来の目的に照らし許されないものだから、法人格を否認すべきとしました。

株式会社では一人会社が認められています。そこで、一人会社であること、すなわち単にある社員が会社を完全に支配しているという事情だけでは、法人格が形骸化しているとはいえないということとなります。そのため、法人格否認の法理の要件が要求されることとなっています。

なお、学説には、形骸化事例の認定基準の不明確性を理由に、法人格否認の法理は濫用事例にのみ適用されるとする見解もあります。

判例 最判昭44.2.27/百選〔3〕

事案: Y会社は、X所有の建物を賃借して、その一部で電気器具販売店を営み、他の部分にはY会社の代表取締役であるAが居住していた。Y会社は、実質的にはAの個人企業であり、税金対策上会社形態にしたにすぎなかった。

その後、XがAに対して建物の明渡しを申し入れ、Aが承諾した。しかし、その明渡期限となってもAが明け渡さないため、XがAに対して明渡請求訴訟を提起し、その訴訟係属中、XA間でAが建物を明け渡す旨の和解が成立した。

ところが和解成立後、Aが次のように主張した、「和解契約の当事者はAであってY会社ではないから会社が使用している部分は明け渡さない」

そのためXがY会社に対して建物明渡を請求した事案。

判旨:前記のように、一般論として法人格否認の法理を肯定したうえで、会社とその背後の社員が実質的に同一であり、その取引が会社としてなされたのか個人としてなされたのか判然としないような場合には、「会社名義でなされた取引であっても、相手方は会社という法人格を否認して恰も法人格のないと同様、その取引をば背後者たる個人の行為であると認めて、その責任を追求することを得、そしてまた、個人名義でなされた行為であっても、相手方は敢て商法504条を俟つまでもなく、直ちにその行為を会社の行為であると認め得るのである」として、本件訴訟上の和解は、A個人名義にてなされたにせよ、その行為はYの行為と解し得るとし、Xの請求を認めた。

本件訴訟上の和解は、A個人名義でなされたにせよ、会社であるYの行為と認められるとして、法人格否 認の法理を肯定しました。



法人格の濫用事例


法人格の濫用とは、会社の背後にあって支配する者が、違法又は不当な目的のために会社の法人格を利用する場合です。

法人格の濫用が認められるためには以下の要件が必要です。
① 背後者が会社を自己の意のままに道具として用い得る支配的地位にあって、会社法人格を利用している事実(支配の要件)
② 違法な目的という主観的要素(目的の要件)

判例 最判昭47.3.9

判例は、甲株式会社の実質上の一人株主乙が、選任決議を経ていないにもかかわらず、代表取締役として甲会社の丙に対する債権を丁に譲渡し、その旨を丙に通知した事案について、当該債権は実質上乙個人の債権と解することができ、乙の債権譲渡行為及び通知行為は、実質上の権利の帰属者のした行為としてその効力を生ずるとした。


判例 最判昭48.10.26


事案: 倒産の危機に瀕した会社が、強制執行免脱・財産隠匿のために商号を変更し、旧会社と同一商号の新会社に財産を移転して、新会社が旧会社と同一の常業を継続したため、債権者が新会社に対して請求した事案。

判旨: 「株式会社が商法の規定に準拠して比較的容易に設立されうることに乗じ、取引の相手方からの債務履行請求手続を誤まらせ時間と費用とを浪費させる手段として、旧会社の営業用財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、形式的には新会社の設立登記がなされていても、新旧両会社の実質は前後同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であって、このような場合、会社は右取引の相手方に対し、信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社のいずれに対しても右債務についてその責任を追及することができるものと解するのが相当である」として、新会社に対する請求を認めた。

ある事案において法人格否認の法理が適用される場合にはその事案においては会社の独立性が否定され、会社と背後の者(株主・社員)が同一視されることとなり、債権者は会社・背後者いずれに対しても請求することができます。

結論として、判例は、新会社の設立は旧会社の債務免脱目的でなされた会社制度の濫用であって、相手方は新旧両会社のいずれにも責任追及ができるとして、新会社に対する請求を認めました。

裁判例 名古屋高判昭47.2.10

営業譲渡による競業避止義務を負う会社の代表者が、会社の競業避止義務を回避する意図で個人として競業を行った場合、法人格の濫用があるものとし、会社の法人格を否認して会社と社員との人格を同一に取り扱うのが相当であるとし、会社は当該競業行為について競業避止義務違反の資任を免れないとした。


裁判例 徳島地判昭50.7.23

親会社が不当労働行為の意思に基づき子会社を解散した場合に、法人格の濫用に該当するとして雇用関係につき子会社の法人格を否認し、子会社従業員と親会社との間に雇用関係の存続を認めた


判例 最判昭53.9.14

法人格濫用と認められても、手続法上、判決の既判力・執行力を訴外会社に拡張することはできない。


判例 最判平17.7.15

第三者異議の訴え(民執38)の事例で法人格否認の法理を適用した。





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