会社の信用とブランドが投影される「商号」の基礎知識と、名板借のリスクと責任

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会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とされます。そして、商法4条1項が、商人とは自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいうとしているため、会社は法律上商人として扱われます。したがって、商人に固有の制度である商法総則の規定や商行為に関する規定(尚501以下)などは、会社に適用されるのです。

ただし、商法総則の11条以下の規定(商号、商業使用人、代理商等)の対象となる「商人」の概念には、会社は含まれていません(商11Ⅰかっこ書参照)。そして、それに対応する会社の商号、使用人、代理商等については、会社法の総則中に規定が設けられています。

新商法と会社法の適用関係

会社法が制定されたことで、新商法と会社法の2つの法律が同時に適用されることになりました。そこで、両者の関係を整理しておきましよう。
①商法総則と会社法の関係
新商法第1編第4章から7章のうち、会社に適用されるべきものについては、会社法第1編第2章から4章までに同様の規定が設けられています。そこで、新商法第1編第4章から7章は、会社には適用されないこととしました(商11Ⅰかっこ書)。
②商行為法と会社法の関係
会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は商行為とされます(5)。したがって、かかる会社の行為には常に商行為法が適用されることになります。



会社の商号は、会社の信用の対象となります。そこで、商号に対する第三者の信頼保護と商号を排他的に使用したい会社の利益保護が問題となります。

また、「名板貸」は重要論点ですので、しっかり理解しましょう。

商号の選定


会社は、その名称を商号とする(6Ⅰ)とされており、会社は、自己の営業の実態にかかわらず、自由に商号を選定することができます。

このように会社が自らの使用する商号を自由に決定できることを「商号選択自由の原則」と呼ぶことがあります。

会社法第6条(商号)

1 会社は、その名称を商号とする。
2 会社は、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならない。
3 会社は、その商号中に、他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。




商号選定自由の制限


会社は、その種類に応じて、商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を使用しなければなりません(6Ⅱ)。特定種類の会社であることを商号自体において明示し、もって(特に社員 の責任等の関連において)取引安全を図る趣旨です。

また、会社でない者はその名称又は商号中に会社であると誤認させるおそれのある文字を使用することはできません。個人企業や一般人が会社企業のような外観をとることを防止し、取引きの安全を図る趣旨です。
会社法第7条(会社と誤認させる名称等の使用の禁止)

会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。



不正の目的による商号使用の禁止


何人も不正の目的をもって、他の会社であると誤認させるおそれのある名称又は商号を使用してはなりません(8Ⅰ)。

会社法第7条(会社と誤認させる名称等の使用の禁止)

1 何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。



旧商法下では、すでに登記された商号がある場合は、同一市町村内において同一の営業のために同一の商号を登記することができないとされていました(旧19)。 しかし、営業内容さえ異なれば同一の商号を登記することができますし、企業の活動領域が拡大している現代においては同一市町村内のみの規制をしても効果は薄いといえます。

また、会社を設立しようとする者は同一の商号がすでに登記されているかを調査しなければならないので、迅速な設立が阻害されています。さらに、商号権の譲渡により利益を上げようとする商号屋の活動を許すことにもなります。 そこで会社法は、類似商号規制を廃止しました。商号の不正使用からの保護は、会社法8条や不正競争防止法で図られることになります。

名板貸


自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社がその事業を行うものと誤認して商号借受人と取引きした者に対し、商号借受人と連帯して、その取引きによって生じた債務を弁済する責任を負います(9)。


名板借人の事実的不法行為によって生じた債務


交通事故等の名板借人の事実的不法行為によって生じた債務は、会社法9条により名板貸会社が連帯して責任を負う債務に含まれるかが問題となります。文言上、「当該取引によって生じた債務」とされているため問題となります。

会社法第9条(自己の商号の使用を他人に許諾した会社の責任)

自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。



会社法9条の趣旨は営業主らしい外観を信頼した第三者を保護し、取引の安全を確保する点にああります。 そうだとすれば「当該取引によって生じた債務」とは、第三者が右の外観を信じて取引関係に入ったため、名義貸与を受けたものがその取引きをしたことによって負担した債務をいいます。

よって取引上の債務はもとより、取引きの外形による詐欺等の取引的不法行為によって負担した債務もこれに含まれるが、事実的不法行為によって負担した債務はこれに含まれないと解されます。

判例 最判昭52.12.23

交通事故などの純然たる事実行為である不法行為については旧商法23条(商法14条、会社法9条)の適用はなく、被害者が名義借人との示談契約にあたって、名義貸人を営業主と誤信した場合であっても、当該示談契約は「其ノ取引二因りテ生ジタル債務」とはいえないとした。

判例 最判昭58.1.25

名板借人が被害者を詐欺した事案において、そのような取引行為の外形をもつ不法行為については、旧商法23条(商法14条、会社法9条)の適用があることを示した。



【平成15年度第2問】
甲山一郎は、有名なテレビタレントであるが、同人の高校時代からの友人であるAは、洋服店を開業することを計画し、その商号を「ブティック甲山一郎」としたいと考えた。
そこで、Aは、甲山に電話で、「今度、洋服店を始めたいが、その際に君の名前を使ってよいか。」と尋ねたところ、甲山は、「自分の名前が広まるのは大歓迎であり、どんどん使ってほしい。Jと答えた。Aは、「ブティック甲山一郎」の商号で洋服店を開業したものの、その後半年もしないうちに、持病が悪化したため、営業から引退することを考え、洋服店の営業を知人のBに讓渡することにした。Aから営業譲渡を受けたBは、「甲山一郎ブティック」の商号で洋服店を開業した。
1 Aの債権者であるCは、甲山又はBに対して弁済を請求することができるか。
2 Bの債権者であるDは、甲山に対して弁済を請求することができるか。
有名なテレビタレントである甲山一郎は、高校時代の友人Aから「ブティック甲山一郎」という名前で洋服店を開業したいと相談を受けました。甲山は自身の名前を使うことに賛成し、Aはその名前で洋服店を始めました。しかし、Aは持病の悪化により半年もしないうちに営業を引退し、洋服店を知人のBに譲渡しました。Bはその後、「甲山一郎ブティック」として洋服店を再開業しました。

結論は以下の通りです。
Aの債権者Cは、Bに対して弁済を請求することができるが、甲山に対しては請求できない。 Bの債権者Dは、甲山に対して弁済を請求することはできない。

甲山はAに対して「ブティック甲山一郎」という名前の使用を許可しましたが、甲山自身がその店舗の経営に直接関与しているわけではありません。名前の使用許可は商号利用の承認に過ぎず、経営責任や債務の引き受けを含むものではありません。このため、Aの債権者Cは、甲山に対して弁済を請求することはできません。

Aが持病のために営業をBに譲渡し、Bが「甲山一郎ブティック」という名前で再開業した場合、BはAから営業を引き継いだ形になります。営業譲渡が適切に行われた場合、通常、営業譲渡先は譲渡元の債務も引き継ぐとみなされます。したがって、Aの債権者CはBに対して弁済を請求することが可能です。

Bの債権者Dに関しても、甲山は「甲山一郎ブティック」という名前の使用を許可したに過ぎず、店舗の経営やBの債務には関与していません。そのため、Bの債権者Dが甲山に対して弁済を請求することはできません。


名板貸人の責任の要件


①名板借人が名板貸会社の商号を使用すること(外観の存在)
②名板貨が商号使用を許諾すること(帰責事由)
③第三者の誤認(相手方の信頼)



名板貸会社と名板借人の事業が同種であることの必要性


会社法9条における名板貸会社の責任の要件として、名板貸会社と名板借人の事業が同種であることを要するのでしょうか。明文上要件とされていないものの、同条は第三者の外観信頼を保護する制度であるため問題となります。

会社法9条は、商号が社会的に当該事業の同一性を表示し、その信用の標的となる機能を営むという事実に基づく規定です。

そのため原則として、名板貸会社と名板借人の事業は同種であることを要します。

しかし同条は外観法理に基づく規定である以上、第三者が事業主体を誤認するおそれが十分に認められる特段の事情があれば、事業の同種性は不要です。

したがって同条における名板貸会社の責任の要件として、上記特段の事情のない限り、名板貸会社と名板借人の事業が同種であることを要すると解されます。

商号は、法律上は特定の営業につき特定の商人を表す名称であり、社会的には当該事業の同一性を表示し、その信用の標的となる機能を営むものです。

会社法9条は外観法理に基づく規定である以上、事業主体を誤認するのもやむを得ない外観が存在する場合には、事業の同種性は不要とするべきです。



名板貸会社の責任


名板借人の取引きの相手方が名板貸会社の責任を問うためには、相手方の主観的要件をいかに解すべきでしょうか。「誤認」の意義が問題となります。

会社法9条の文言上、「過失」は要求されていません

また会社法9条の趣旨は、名板借人との取引きにおいて営業主らしい外観を信頼した者の保護という点にあります。

ただ悪意と同視すべき重大な過失を有するものは保護に値しません。

したがって相手方の主観的要件としては、善意無重過失を要求すべきであると解されます。

確かに以下の理由から、名板借人と取引する際に、善意であった者のみ保護に値するとの説もあります。

会社法9条は、相手方が営業の主体を誤認するような「外観」の存在と、商号の使用を「許諾」したということを基礎とするのであるから、相手方の信頼を重視するべきでなく、外観作出の責任を重視すべきであるから、「誤認」に過失の有無を問うべきでない。

それでも判例は以下の理由から「善意無重過失を要求する説」を取っています。 ・文言上「過失」は要求されていない以上、過失は問題とすべきではないが、信頼は保護に値するものでなければならないから、悪意と同視すべき重大な過失がある場合には保護されない。
・取引きの安全を重視すべきであり、民法109条の解釈論をそのまま持ち込むべきではない。

判例 最判昭43.6.13商法百選〔20〕

名板貸人の資任を負うためには、特段の事情がない限り、名板貸人の営業と名板借人の営業が同種のものでなければならないとした。





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