しかし多数の株式を発行する株式会社の株主の、保有している株式数は必ずしも同じではありません。100株所有している株主と、500株保有している株主では、もっている権利や発言権は違うはずです。
また大株主というだけで、会社に理不尽な要求を突き付けてくる株主の権利濫用も問題となります。
会社の経営に積極的に意見する「モノ言う株主」の正当性も、会社法から考えていきましょう。
株主平等の原則とは
株主平等原則とは、株式会社は、株主としての資格に基づく法律関係については、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない原則のことです(109Ⅰ)。
一般的な正義・公平の理念が団体法においても発展したものであるとされます。すなわち株式は均等な割合的単位ですので、権利も均等であるベきといえます。
株式会社では社員である株主の個性は問題とされず、かつ社員の交代が自由であることから、社員の人的な個性に基づく平等はかえって不平等です。
株主総会・取締役会の決議や、代表取締役の業務執行行為でも、株主平等原則に反することは許されません。
旧商法と異なり、会社法では、109条1項で特に株主平等原則が明示されています。これに加えて、議決権(308Ⅰ本)、剰余金配当請求権(454Ⅲ)、残余財産分配請求権(504Ⅲ)について、持株数に応じて付与される旨の規定があります。
旧商法下では、株主平等原則について明文の規定はありませんでした。しかし、会社法では種類株式の内容が多様化し、また、株主ごとに異なる扱いをすることも認められています。これらの利用の仕方によっては、実質的に株主の平等が害されるおそれがあります。
そこで会社法は、株主平等原則について明文の規定を設けました。同条は、各株式の内容が同一である限り同一の取扱いがされることを意味します。
1 株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
3 前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、この編及び第五編の規定を適用する。
社員が団体に対して同一の参与の関係に立つ以上、一部を他と異なって待遇するのは正義・公平に反するといえ、その意味では、社員平等の原則はすベての会社に認められるものです。ただし、各社員が資本的に結合するに過ぎない株式会社の場合には、平等の基準が頭数ではなく持株数に求められる(資本的平等)という特色があります。
株主平等原則の内容と効果
株式平等の原則は以下の2点がポイントです。
(1)株式の内容が異なる種類の株式が発行されている場合には、株式の内容に応じて異なる取り扱いをすることができる。
(2)株式の数が異なる場合には、株式数に応じて平等に取り扱わなければならない。
株主総会決議や取締役の業務執行行為で株主の不平等待遇を定めても無効です。
109条1項の解釈について、株式数に応じた比例的取扱いを義務付けた規定ではなく、株式の数に着目した合理的な取扱いを要求したものと解する考え方があります。この考え方からは、株主優待制度のように、株式数に着目して段階的に差別的取扱いをすることも合理性がある限り、109条1項にいう「数に応じて」取り扱ったものと当然に許されることになります。
株主平等原則は、株式会社における多数決の濫用や、会社管理者の恣意的な権限行使から少数株主を保護するという機能を果たしてるとも言えます。
株主平等原則は強行法的性格を有し、これに反する定款の定め、株主総会の決議、取締役会の決議、代表取締役の執行行為等はすべて無効となります。
ただし、それにより不利益を受ける株主が承諾すれば、有効です。また、株式の種類に従って差別的取扱いをする場合には、特殊株主総会の決議を経れば個々の株主の承諾を要しません。
株主平等原則の法律上の例外
剰余金配当・残余財産分配・議決権に関する株主ごとの異なる取扱いの定め
公開会社以外の株式会社においては、①剰余金の配当を受ける権利(105Ⅰ①)、②残余財産の分配を受ける権利(105Ⅰ②)、③株主総会における議決権(105Ⅰ③)に関する事項について株主ごとに異なる 取扱いを行う旨を定款に定めることができます(109Ⅱ)。この定款の定めを設ける場合の株主総会の決議は、総株主の半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上であって、総株主の議決権の4分の3(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上にあたる多数をもって行わなければなりません(309Ⅳ)。
この定めがある場合には、その株主が有する株式は種類株式とみなされます(109Ⅲ)。
共益権行使の制限(少数株主権)
一定の共益権を行使し得る者が、6か月以上前から株式を有する株主や、総株主の議決権のうちの一定割合以上の株式を有する株主等に限定される場合があります(303、306Ⅰ、358Ⅰ、360、854Ⅰ等)これらの規定は、権利内容を定めたものではなく、どの株主も条件をみたせば権利を行使できることから、株主平等原則とは無関係とも思えます。
しかし権利を行使できる者と行使できない者とが生じることを認めている点で、平等原則の例外を定めたものとされます。
持株数・保有期間による差別は、大株主にのみ特権を付与することにつながり得るから、一般的には無効と解されています。
単元株制度
単元株制度を採用した会社では、1単元の株式につき1個の議決権を有することになり(308Ⅰただし書)、単元未満株式は議決権を有しません。これは平等原則の例外をなすものです。
1 単元株式数に満たない数の株式(以下「単元未満株式」という。)を有する株主(以下「単元未満株主」という。)は、その有する単元未満株式について、株主総会及び種類株主総会において議決権を行使することができない。
一定の株式交付や株式の併合・分割による1株にみたない端数の発生
一定の株式交付や株式の併合・分割が行われた場合、1株にみたない端数が生じる場合があり、会社法のもとでは、1株に満たない端数は、すべて金銭によって処理されます。例えば、3株を1株として併合した場合、3株有していた株主Aは1株の株式を受けるが、4株有していた株主Bは1.333株を受けることになります。
株式の併合で端数の発生した場合、端数は一括売却され、代金が分配されます(2351)。
経済的な平等は期されていますが、それだけではみたされない不平等が生じるので、平等原則の例外をなすものと考えられます。
1 次の各号に掲げる行為に際して当該各号に定める者に当該株式会社の株式を交付する場合において、その者に対し交付しなければならない当該株式会社の株式の数に一株に満たない端数があるときは、その端数の合計数(その合計数に一に満たない端数がある場合にあっては、これを切り捨てるものとする。)に相当する数の株式を競売し、かつ、その端数に応じてその競売により得られた代金を当該者に交付しなければならない。
一 第百七十条第一項の規定による株式の取得 当該株式会社の株主
二 第百七十三条第一項の規定による株式の取得 当該株式会社の株主
三 第百八十五条に規定する株式無償割当て 当該株式会社の株主
四 第二百七十五条第一項の規定による新株予約権の取得 第二百三十六条第一項第七号イの新株予約権の新株予約権者
五 合併(合併により当該株式会社が存続する場合に限る。) 合併後消滅する会社の株主又は社員
六 合併契約に基づく設立時発行株式の発行 合併後消滅する会社の株主又は社員
七 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得 株式交換をする株式会社の株主
八 株式移転計画に基づく設立時発行株式の発行 株式移転をする株式会社の株主
1 株式会社が株式の分割又は株式の併合をすることにより株式の数に一株に満たない端数が生ずるときは、その端数の合計数(その合計数に一に満たない端数が生ずる場合にあっては、これを切り捨てるものとする。)に相当する数の株式を競売し、かつ、その端数に応じてその競売により得られた代金を株主に交付しなければならない。
現物配当の場合の配当財産
現物配当の際に、一定数以上の株式を有する者に対しては現物配当財産を、一定数未満の株式しか有さない株主には金銭を交付するという取扱いの違いを設けることが可能です(454Ⅳ②、456)。実質的な剰余金配当(株主平等原則の解釈上の例外)
会社が、一般の株主には無配としながら、特定の大株主に対してのみ中元、歳暮等の名目で金銭を贈与した場合、株主平等原則に反しないかが問題となります。
一般株主に対しては無配としながら、特定の大株主に対して金銭を贈与するのは、実質的にみれば、その大株主にのみ剰余金配当を行ったのと同様です。
だとすれば、かかる契約は、特定の大株主のみを有利に扱うものであるから、株主平等原則に違反し、無効であると解されます。
旧商法においては、株主平等原則の内容として株式の内容の平等が含まれ、種類株式はこの例外であると考えられていました。しかし、会社法においては、株式の内容に応じて平等に取り扱うものとされ、種類株式は平等原則の例外であるという説明は不要になりました。
一方で、「株主平等原則違反で無効とする見解」や「違法な剰余金配当として無効とする見解」もあります。
特定の大株主のみに中元、歳暮等の名目で金銭を贈与した場合、実質的にはその者に対してのみ無配による損失を填補する意味をもつのであり、一部の株主のみを有利に待遇することになり株主平等原則違反と考えられます。
またこのような金銭贈与は実質的には剰余金配当たる性格を有するものであり、分配可能額が存在しないにもかかわらずなされれば、会社法461条に違反し、株主平等原則違反を問題とする以前に違法配当として無効であるとの見解もあります。
事案: Y会社は、諸般の事情により無配としたが、Y会社の発行済株式総数の100分の3以上の大株主であるXがこれに不満を示し、無配による損失の填補を求めた。そのため、Y会社はこれを承諾せざるを得なくなり、減額交渉の後、月額8万円、中元及び歳末に各5万円を支払うという合意に達した。そこでXが、右金員の支払を請求した事案。
判旨: Xが当初請求した金額は、無配となる直前の決算期における、X及びその家族所有の株式に対する配当額に見合うものであり、「この金額を基礎として本件贈与契約が締結されるに至ったものであり、本件贈与契約は無配によるXの投資上の損失を填補する意味を有するものである旨、そして、本件贈与契約は右のように株主中Xのみを特別に有利に待遇し、利益を与えるものであるから、株主平等の原則に違反し、商法293条本文(会社法454条3項)の規定の趣旨に徴して無効である旨の原審の認定判断は…」首肯できるとした。
株主優待制度(株主平等原則の解釈上の例外)
電鉄会社や興行会社等において、一定数以上の株式を有する株主に対して優待乗車券、優待入場券等を与える場合があります。このような株主優待制度は、一定数以上の株式を有する株主のみを有利に扱うものとして、株主平等原則に反するのではないかが問題となります。
判例は、無配の損失てん補として大株主を特別に有利に待遇するものであり、株主平等原則・293条(会社法454条3項)の規定の趣旨に反し無効であるとしました。
一方で、株主優待制度が株主優待制度に違反しないかどうかにつき、「厳格な株主平等の原則の適用範囲は、会社308条1項、454条3項等の明文の規定のある範囲に限られ、それ以外については、法の一般原則から生ずる事務処理の要請(一般的平等取扱いの要請、恣意性の排除)があるにすぎず、株主優待制度は後者の範疇なので違法性がない」とする見解にもあります。
もっとも会社の営業上のサービスであっても、その与えられ方いかんによっては実質的な不平等をもたらすおそれがあるから、平等原則による規制の下におくべきです。
もっとも株主優待制度の場合、議決権や利益配当請求権のように、法律上強く平等な取扱いが要求されている権利が問題となっているわけではなく、平等原則を厳格に解する必要はありません。
そこで自社製品・施設の宣伝などの正当な目的があり、かかる目的を達成するために合理的な必要性があると認められる範囲内においては、実質的に平等原則には反しないものと考えるのです。
株主優待制度が平等原則に反しないとする見解の中には、株主平等原則を明示した会社法109条1項の「数に応じて」という文言に着目する考え方があります。すなわち、109条1項は、株式数に応じた比例的取扱いを義務付けた規定ではなく、株式の「数」に着目した合理的な取扱いを要求したものと解するのです。この考え方からは、株主優待制度のように、株式数に着目して段階的に差別的取扱いをすることも合理性がある限り、109条1項にいう「数に応じて」取り扱ったものと当然に許されることになります。
会社法においては、金銭以外の財産を配当財産とすること(現物配当)が認められたため、株主優待制度は会社法下では現物配当として行うべきと解されます。よって、454条4項の定める株主総会決議や461条の定める財源規制を離れて脱法的に行うことは許されません。
株主総会において従業員株主を前列に座らせた場合(株主平等原則の解釈上の例外)
株主総会において、会社がいわゆる従業員株主を別の入口から先に入場させて会場の前方の席に座らせることは、株主平等の原則に反しないかが問題となります。
同じ株主総会に出席する株主に対しては、同一の取扱いをすべきであり、自社の従業員株主のみを株主総会において前方に着席させることは原則として株主平等原則に反します。
もっとも株主平等原則の機能は、株式会社における多数決の濫用や、会社管理者の恣意的な権限行使から少数株主を保護することです。
多数決の濫用防止という合理的理由がある場合には、従業員株主を前列に座らせることも、例外的に許されると解されます。
以下の要件をみたす場合であれば、合理的理由があり株主平等原則に反しません。
①株主総会の議事進行の妨害が予想され、②株主に質問ないし動議提出の機会が与えられ、③議長の秩序維持権(315)の適切な行使をもってしても対処が困難といえる場合である。
判例は、従業員株主を株主席の前方に着席させることは、合理的理由があると解することができないとしつつ、具体的に株主の権利が妨げられていないので、法的利益が侵害されていないとした。
事案: 株主総会の議事進行が妨害されたり、議長及び役員席を取り囲まれたりするといった事態をおそれたY会社は、Y会社の株主である従業員に指示して受付開始時刻前に会場に入場させ、株主席のうち、前方部分に着席させた。そのため、株主Xは、本件株主総会の会場において希望する座席を確保すベく、本社ビルの近くに宿泊して早朝から入場者の列に並んだにもかかわらず、6列目の中央部に着席せざるを得なかった。父は、本件株主総会において、議長から指名を受けたうえで動議を一度提出した。
このような事案において、XはY会社から従業員株主らとの間で右のような差別的取扱いを受けたことにより、希望する席を確保できなかったとして、Y会社に対し不法行為に基づく損害賠償を請求した。
判旨: 「株式会社は、同じ株主総会に出席する株主に対しては合理的な理由のない限り、同一の取扱いをすべきである。本件において、Y会社が…本件株主総会の議事進行の妨害等の事態が発生するおそれがあると考えたことについては、やむを得ない面もあったということができるが、そのおそれのあることをもって、Y会社が従業員株主らを他の株主よりも先に会場に入場させて株主席の前方に着席させる措置を採ることの合理的な理由に当たるものと解することはできず、Y会社の右措置は、適切なものではなかったといわざるを得ない」。
「しかしながら、又は、希望する席に座る機会を失ったとはいえ、本件株主総会において、会場の中央部付近に着席した上、現に議長からの指名を受けて動議を提出しているのであって、具体的に株主の権利の行使を妨げられたということはできず、Y会社の本件株主総会に関する措置によって又の法的利益が侵害されたということはできない。」
日割配当の禁止
旧商法下では、営業年度の途中で新株が発行された場合に、その新株への利益配当を日割りで計算して配当をすることもできるとするのが通説でした。
しかし会社法の下では、その事業年度に生じた剰余金だけではなく、それ以前の事業年度に生じた剰余金のうち配当していないもの等を含めた剰余金を配当することになります。また、配当財産の割当ては株主間で平等でなければならないこととされました(454Ⅲ)。
したがって、会社法の下では日割配当は禁止されると解するべきでしょう。この点、株主割当ての方法により低い払込金額で発行された等の新株式に対し、日割配当することも資金拠出者の実質的平等に合致する場合もあるので一概に違法とはいえないとされています。
1 株式会社は、前条の規定による剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額
二 株主に対する配当財産の割当てに関する事項
三 当該剰余金の配当がその効力を生ずる日
2 前項に規定する場合において、剰余金の配当について内容の異なる二以上の種類の株式を発行しているときは、株式会社は、当該種類の株式の内容に応じ、同項第二号に掲げる事項として、次に掲げる事項を定めることができる。
一 ある種類の株式の株主に対して配当財産の割当てをしないこととするときは、その旨及び当該株式の種類
二 前号に掲げる事項のほか、配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととするときは、その旨及び当該異なる取扱いの内容
3 第一項第二号に掲げる事項についての定めは、株主(当該株式会社及び前項第一号の種類の株式の株主を除く。)の有する株式の数(前項第二号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、各種類の株式の数)に応じて配当財産を割り当てることを内容とするものでなければならない。
株主の権利濫用
ここでは、「株主の権利行使に対する制約」が重要となります。どのような場合に株主の権利行使が制約されることとなるのかについて株主権の性質と関連付けて理解しておいて下さい。
そのうえで、「議決権と権利濫用」、「会計帳簿閲覧謄写権と権利濫用」等の具体的な場面において、株主の権利行使がどのように制限されているのか注目しましょう。
株主は、会社に対して種々の権利を有しますが、その権利の行使は一般私法の原則である権利濫用禁止の原則(民1Ⅲ)に服することになります。
よって、たとえば株主が会社から不当に金銭を得る目的や、会社に対する嫌がらせ目的で権利を行使することは、権利濫用として許されません。
いかなる場合に、株主の権利行使が権利濫用となるのかについて、まず株主権一般について説明したうえで、個別的権利ごとに解説しましょう。
株主の権利行使に対する制約
株主による権利行使が権利濫用とされるのはいかなる場合かが問題となります。株主権は株主の個人的利益のために行使し得るのか、もっぱら会社のために行使すべきであるのかが、株主権の性質と関連して問題となります。
株主が会社に対して有する権利は、会社の実質的所有者としての権利が会社の社団法人性に即応して変貌を遂げ、会社に対する種々の権利として現れたものです。
そうだとすれば株主の権利は、自益権たると共益権たるとを問わず、その根本においては株主自身の利益のための権利であるといえ、原則として自己のために行使し得るものというべきでしょう。
もっとも株主の権利は団体の構成員たる資格において与えられるものであり、その行使の効果が団体全体に及び他の株主の利益をも処分することになる以上、団体的制約に服するのは当然です。
よって株主の権利は株主としての利益のために行使されるべきであり、株主たることと関係のない純個人的利益を追求することにより会社の利益を害する場合には、権利濫用となると解されます。
ここでいう「株主としての利益のため」という制約は、もっぱら会社自体の利益のために権利を行使しなければならないという積極的要請とされるのではなく、会社利益の侵害の下に株主たる資格と関係のない純然たる個人的利益を追求してはならないという消極的制約を意味するにすぎません。
もっとも自益権と共益権に分類される株主権のうち、共益権についてはもっぱら会社のために行使すべきであり、株主個人のために行使すれば権利濫用となるとする見解もあります。
共益権は、その行使によって団体の維持存続発展のために資すべきものであり、共益権を単なる個人的利益のために行使するのは本来の使命の逸脱であり、個人的利益はすべからく団体的利益の前には譲歩すべきとの理由からです。
有限会社についての事案ですが、「有限会社における社員の持分は、株式会社における株式と同様、社員が社員たる資格において会社に対して有する法律上の地位(いわゆる社員権)を意味し、社員は、かかる社員たる地位に基づいて、…自益権と…共益権とを有するのであるが、会社の営利法人たる性質にかんがみれば、これらの権利は、自益権たると共益権たるとを問わず、いずれも直接間接社員自身の経済的利益のために与えられ、その利益のために行使しうべきものと解さなければならし」として、社員権論を採用したものと考えられます。
判例は、社員は社員自身の経済的利益のために権利を与えられ、社員の利益のために行使できるものとしている。
議決権と権利濫用
議決権についても、株主は自己のために行使できるのが原則です。このことは、特別利害関係人も決議に参加でき、特に不当な決議がなされた場合に限って事後的に決議取消し原因となるにすぎない(831Ⅰ③)ことに表れています。
株主が純個人的利益を追求するために議決権を行使し、それにより会社の利益を侵害するような場合には、議決権行使が権利濫用とされることも考えられます。もっとも、議決権行使が権利濫用とされれば、株主にとって極めて重要な権利の行使を排除することになるので、その認定は例外的かつ慎重に行われなければなりません。
具体的には、以下のような場合に議決権行使が権利濫用とならないかが問題となります。
① 持株を高値で会社に買い取らせようと圧力をかける目的で議決権を行使しようとする場合
会社は総会決議を経る等一定の要件をみたさなければ自己株式を取得できないから、株式の高値買取請求自体に濫用の根拠を求めることはできないとする見解もある② 会社を健全に経営していく意思がないのに経営陣の交替を求める場合
内心的な経営参加意思の有無を基準に議決権行使が濫用となるかどうかを議論することが理論的に成り立つか疑問であるとする見解もある事案: いわゆる仕手集団であるYらは、X会社の発行済株式の約45%を買い占め、X会社に対して持株の買取を迫ったが、成功しなかった。そこで、YらはX会社の乗っ取りを企て、株主総会前の社長辞任や役員送り込み等を強要するに至った。 このため、X会社は、このまま総会が開催されれば会社の経営意思及び能力のない仕手集団により乗っ取られるのは必至とみて、Yらの所有株式につき議決権行使を禁止する仮処分を求めた事案。 決旨: X会社の仮処分申請を認容した。 本決定には特に理由が付されていないが、株式高値買取目的の一環たる乗っ取りを実現する議決権行使は権利濫用であるというX会社の主張が認められたものと考えられる。
株式を高く買い取らせる目的の一環として、会社乗つ取りのための議決権行使は権利濫用としたものと考えられる。
会計帳簿閲覧謄写権と権利濫用
会計帳簿閲覧謄写請求権(433Ⅰ)も、株主は原則として自己のために行使できるものの、純個人的利益を追求して会社の利益を侵害することが許されない点で、他の権利と同様です
ただし会計帳簿閲覧謄写請求権に関しては、会社荒らしや競争のため会社の内部事情を知ろうとする者等による濫用の危険があります。
そこで433条2項は、会社が請求を拒否できる場合を列挙しているのです。会社は同条に列挙されている事由を証明できれば拒否できることになるとともに、株主は列挙事由以外の理由によりみだりに閲覧を拒否されないという保障を与えられることになります。
1 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
2 前項の請求があったときは、株式会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
四 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
五 請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
「株式の譲渡につき定款で制限を設けている株式会社…において、その有する株式…を他に譲渡しようとする株主…が、上記の手続きに適切に対処するため、上記株式等の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿等の閲覧・謄写請求は、特段の事情が存しない限り、株主等の権利の確保又は行使に関して調査をするために行われたものであって、(会社法433条2項)第1号所定の拒絶事由に該当しない」。
株主名簿閲覧謄写権と権利濫用
株主名簿閲覧謄写請求権(125Ⅱ)について、旧商法下では、なんら行使の条件が付されていませんでした。しかし、解釈上、株主はいかなる目的のためにも自由に閲覧謄写請求権を行使できるわけではなく、株主としての権利行使のためという正当目的、及び会社の業務に支障を来さないことが必要と解されてきました(大判昭8.5.18等)。
例えば、少数株主が裁判所の許可を得て株中総会を招集するために株主総会の招集通知を発する場合(297)や、少数株主権行使のために必要な持株要件を確保するために他の株主に呼びかける場合等に、正当目的が認められます。
会社法は、このような解釈を引き継ぎ、株主名簿の閲覧・謄写請求にあたって、その理由を明らかにすることを要求し(125Ⅱ)、かつ、会計帳簿の場合と同様に会社が請求を拒否できる場合を列挙しているのです(同Ⅲ)。
具体的には、以下のような場合に、会社は株主名簿閲覧謄写請求権を拒否できます。 ① 嫌がらせを目的とした行使(125Ⅲ②) ② 営利目的による行使(125Ⅲ④) ③ 政治目的による行使(125Ⅲ①)
① 嫌がらせを目的とした行使(125Ⅲ②)
例えば、取引きの相手方に圧力をかけるための嫌がらせ、会社荒らしが会社から金品を収受するための嫌がらせ、会社の主導権争いに際する経営陣に対する嫌がらせに対して、会社は株主名簿閲覧謄写請求権を拒否できるのです。一方で、株式譲渡制限会社の株式を相続により取得し、それを他に譲渡しようとする株主が、その株式の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿の閲覧請求は、特段の事情が存しない限り、株主等の権利の確保又は行使に関して調査するために行われたものです。
判例は、新聞の購読を迫るために、株主名簿の閲覧・謄写を求めることは、不当な意図・目的によるものとして、権利の濫用にあたるものとしました。
事案: 元総会屋Xは、新間・雑誌の購読料などの名目で、Y会社から定期的に金員の支払を受けていたが、Y会社からかかる関係を打ち切る旨の通告を受けた。そこで、Xは右新閒等の購読を再開するよう要請し、また執拗にY会社社長との面会を求めるなどするとともに、Y会社株式一単位を取得し、株主名簿の閲覧・謄写を求めた事案。 判旨: 「263条2項(会社法125条2項)によれば、株主は、会社の営業時間内であれば、いつでも株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができるが、株主の株主名簿の閲覧又は謄写の請求が、不当な意図・目的によるものであるなど、その権利を濫用するものと認められる場合には、会社は株主の請求を拒絶することができると解するのが相当である」としたうえで、本件事案のもとでは、Xの請求は権利の濫用にあたり許されないとした。
裁判例は、株主が経営陣を批判する文書を株主に送付したり、発言権を強化するために株式買受の行動に出ることは、直ちに会社の利益に反するものとはいえないとして、その手段・方法が相当であれば、非難されないものとした。
株主XによるY会社に対する株主名簿閲覧謄写請求は、Y会社の経営陣を批判する立場から、他の株主に対しXの主張を宣伝するため、全株主の住所、氏名を知ることが主たる目的であると認定したうえで、「株主は会社の利益のためその会社経営に対する監視、批判の権限を有するものであり、株主が経営陣を批判する文書を株主に送付したり、また、発言権の強化のため株式を買い受けるための行動にでることは、直ちに会社の利益に反するものとはいえず、その手段、方法が相当である限り何ら非難されることではない。そして、XのY会社の経営陣を批判したり、株式を買い受ける行動が会社の利益に反し、また、社会通念に照らして相当性を欠いているとの立証はない」として、Xの請求を認めた。
② 営利目的による行使(125Ⅲ④)
例えば、名簿業者による情報収集活動の一環として行われる場合は、会社は株主名簿閲覧謄写請求権を拒否できるのです。裁判例は、株主の請求目的が、株主に関する情報を名簿図書館に有償提供することであるとして、権利濫用にあたるとした。
Xが会計帳簿の閲覧謄写権の共同行使を勧誘するためと称し、Y会社に対して株主名簿の閲覧・謄写を請求した事案について、父が過去に同様の目的で株主名簿を謄写した事例において他の株主に対する勧誘行為を行っていないこと、Xが株主名簿閲覧謄写請求権の行使により取得した他の会社の株主名簿の謄本を名簿図書館等に提供していたことなどから、本件Xの請求の目的はそれにより入手した株主に関する情報を名簿図書館等に有償で提供することであると認定し、Xの請求を権利濫用として棄却した。
③ 政治目的による行使(125Ⅲ①)
例えば特定の会社の未公開株式人手の便宜を図られた政治家の調査に際して、政党関係者が資料を入手するため株主となって株主名簿閲覧謄写請求権を行使する場合、会社は株主名簿閲覧謄写請求権を拒否できるとされます。政治的疑惑の解明という公益性を有すると考えられますが、その目的が株主としての権利行使に直接関係がないことから、このような場合にも権利の濫用となり得るといえます。
政治疑惑の調査目的は、株主名簿閲覧謄写請求権を認める法の趣旨を逸脱する目的であるとして、正当 な目的ではないとした。
いわゆるリクルート疑惑に際し、日本社会党政策審議会事務局長の地位にあったXが、Y会社の株式一単位を取得して株主名簿閲覧謄写請求の仮処分を求めた事案について、Xの請求は株主名簿閲覧謄写請求権を認めた法の趣旨を逸脱する目的によりなされたものであり、正当な目的がないとして、Xの請求を却下した。
株主代表訴訟と権利濫用
株主代表訴訟も、株主の不当な個人的利益の追求のために行われ、その結果会社の利益が著しく害される場合には、権利濫用となり得ます。この点、会社法では、株主が訴えの提起につき、自己もしくは第三者の不正な利益を図り、又は会社に損害を与えることを目的とする場合には、会社に対する提訴請求が認められず、当然、代表訴訟の提起もできない旨、明文で定められた(847Ⅰただし書、同Vただし書)。
例えば、根拠もないのに取締役の責任を追及する代表訴訟を提起して会社・取締役を困惑させ、それにより会社から金銭を脅し取る等の不当な個人的利益を獲得する意図がある場合は、権利濫用と考えられます。
もっとも、代表訴訟の場合、法形式的には株主が会社のために役員の責任を追及するものであり、会社のために行っているとみられやすいから、代表訴訟の場合には、株主名簿閲覧請求権等の場合に比べて、権利濫用と認定することは難しいです。
具体的に以下のような事情がある場合に、代表訴訟の提起を権利濫用と認定する根拠とならないかが問題とります。
① 違法行為が行われてから相当期間経過後に株式を取得した場合
代表訴訟提起権者は違法行為当時の株主に限るという規定がない以上、違法行為当時株主でないものによる代表訴訟提起であるという点のみから権利濫用とすることはできません。② 売名目的による場合
原告に完全に会社の利益のみを考えて代表訴訟を提起せよと要求するのは無理であり、その訴訟により有名になろうという気持ちがあっても、義務違反をしている取締役の責任を会社のために追及するのであれば、権利濫用とはいえません。「原告が売名を目的として本訴を提起した疑いは残るものの、なおこれを確信するまでには至らず、結局この点については証明不十分であるといわざるを得ない」として、本件代表訴訟の提起は権利濫用であるとの被告の主張を排斥した。
③ 代表訴訟の提起が原告になんら経済的利益をもたらさない場合
わが国の代表訴訟のほとんどは原告にとって割に合わないものであり、代表訴訟提起の結果、原告の費用持ち出しになることから原告の不純な動機を推測するのは原告にとって酷であるから、この点も権利濫用と認定する根拠にはなりません「株主代表訴訟は、それ自体、これを提起する株主に直接の財産的利益をもたらす性質のものではないから、その株主が一方では会社の権利の実現をはかるとともに、他方ではその訴訟の提起により自己の名前が広がることを望んでいるとしても、それだけの理由で直ちにその代表訴訟の提起が権利の濫用にあたるということはできない。従って、株主代表訴訟の提起が権利の濫用にあたるか否かの判断は慎重になされなければならないのであって、当該代表訴訟の提起が徒らに会社ないしその取締役を恫喝し困惑させることに重点を置いたものであって、…結局会社ないし取締役に対する不当な嫌がらせを主眼としたものであるなどの特段の事情のある場合に限り、これを株主権の濫用として排斥すれば足りるものと解するのが相当である」。なお、最高裁(最判平5.9.9/百選〔25〕)も、第二審の判断を正当としている。
裁判例は、代表訴訟の提起により自己の名前が広がることを望んでいるとしても、それだけでは権利濫用とはならないとし、会社に不当な嫌がらせをすることを主眼とするような特段の事情のある場合に限り、権利濫用にあたるとしている。
濫訴防止のための担保提供義務
代表訴訟に際して、被告取締役は原告株主の「悪意」を疎明して担保提供を申し立てることができます(847Ⅶ、Ⅷ)。この「悪意」の意義に関しては争いがあるが、「①原告の請求に理由がなく、原告がそのことを知って訴えを提起した場合、又は、②原告が株主代表訴訟の制度の趣旨を逸脱し、不当な目的をもって被告を害することを知りながら訴えを提起した場合」を指すものとする決定例が多いです(東京高決平7.2.20/百選〔75〕等)。
かかる「悪意」が認定されたとしても、当該代表訴訟の提起が不法行為に該当するか否かは別問題であることに注意が必要である。
7 株主が責任追及等の訴えを提起したときは、裁判所は、被告の申立てにより、当該株主に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。
8 被告が前項の申立てをするには、責任追及等の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければならない。
事案: 担保提供を命じる決定に対し、原告株主が所定の期間内に担保提供をせず訴えが却下された後、取締役が当該株主に対して不法行為に基づく損害賠償を請求した事案。
判旨: 「株主代表訴訟において、提訴者の悪意が疎明されて担保提供が命じられたとしても、同訴訟の提起そのものの違法性については改めてその成立要件を検討すべきである」。不当提訴により不法行為が成立するための要件は、「提訴者の主張した権利…が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起した場合など、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」場合であるとして、結論として原告株主の不法行為責任を否定した。
裁判例は、悪意が疎明されたとしても、提訴の違法性は改めて検討すべきとした。そして、不法行為が成立するためには、①提訴した権利が事実的、法律的根拠を欠くものであること、かつ②提訴者がそのことを知り、又は通常人が容易に知り得たのに提起した場合等著しく相当性を欠くことが必要とした。
株主権の濫用とその対策
株主権は、自益権たると共益権たるとを問わず、その根底においては株主自身の利益のための権利であるといえ、株主自身の経済的利益のためにこれを行使できるのが原則です。
しかし、株主権は団体の構成員たる資格に基づいて与えられ、その行使の効果が団体全体に及ぶ以上、団体的制約にも服するのは当然であるといえるでしょう。
ただし、この場合の制約は、会社の利益の侵害のもとに、株主たる資格と関係のない利益を追求してはならないという消極的なものです。
そして、株主権の濫用となるためには、①株主たることと関係のない純個人的利益のために株主権が行使されること、及び②これによって会社の利益が侵害されること、という2つの要件を充足していることが必要となると解されます。
もっとも、①②を基準に権利の濫用を判断するとしても、株主権の種類・性質は多種多様であり、具体的な権利行使について、いかなる場合が権利の濫用にあたるかの判断は容易ではありません。そこで、具体的な権利ごとに濫用とされる場合、その対策について検討する必要があります。
| 株主権 | 濫用 | 対応 |
|---|---|---|
| 議決権(308) | 自己の株式を高値で買い取らせるための議決権行使決議取消事由となり得る(831Ⅰ③) | |
| 質問権(314) | 議事の進行を妨げる目的や経営上の秘密を取得する目的での質問 | 説明を拒否できる(314ただし書) |
| 議題・議案の提案権(303、305) | 議事の進行を妨げる目的での提案 | 少数株主権とし、かつ、株式保有期間を法定(公開会社のみ)法令・定款違反等の議案の禁止(305Ⅳ) |
| 株主名簿閲覧権(125Ⅱ) | 商業目的で株主の住所氏名の調査する場合 | 拒否事由の法定(125Ⅲ) |
| 会計帳簿閲覧権(433) | ライバル企業が経営上の秘密を取得する目的で閲覧 | 少数株主権とし、かつ、拒否事由を法定(433Ⅰ・Ⅱ) |
| 責任追及の訴え提起権(847) | 請求に理由のない訴え等 | 株式保有期間(公開会社のみ)原則として、会社に訴え提起を請求することを法定(847Ⅲ)担保提供(847Ⅶ) |
| 責任追及の訴え提起権(847) | 不正な利益・会社に損害を与える目的 | 却下制度の新設(847Ⅰただし書) |
| 自益権一般 | 嫌がらせ目的 | 自益権行使は直接会社へ影響しないので、濫用防止規定は特になし。ただし、権利濫用(民1Ⅲ)となる場合があり得る |
有限会社の事例であるが、社員たる地位の譲渡を承認した者が、自らその持分譲渡承認決議の不存在確 認を求める訴えを提起することは、特段の事情のない限り、訴権の濫用にあたるとした。
ある取締役会設置会社が、平成20年度の株主総会において、次のような内容の定款変更を行おうと考えている。それぞれについて商法上どのような問題があるかを説明したうえ、そのような定款変更が許されるかどうかについて論ぜよ。
1 株式の譲渡について株主総会の承認を必要とする。
2 1万株以上の株式の所有者は、自社の製品を定価の4割引きで購入することができる。
3 平成21年度以降に発行する株式に対して行う利益配当は、それまでに発行した株式に対して行う利益配当の2分の1とする。
[問題点]
1 株式譲渡自由の原則と定款による株式譲渡の制限
2 株主優待制度と株主平等原則
3 定款による剰余金配当請求権の制限と株主平等原則
提案された定款変更の内容と問題点 1. 株式の譲渡について株主総会の承認を必要とする
会社法(商法改正後の会社法)第127条には「株式の譲渡は自由である」という株式譲渡自由の原則が定められています。ただし、定款で株式の譲渡に制限を設けることは認められています(会社法第133条)。その際、譲渡制限が合理的であり、かつ会社の利益に資するものでなければなりません。
本会社は取締役会設置会社なので、原則として取締役会が株式譲渡の承認機関(139Ⅰ本)です。この場合、株主総会を承認機関とする定款変更は、株式譲渡自由の原則(127)に反しないかが問題となります。
株主を誰にするかを株主総会において株主自ら決定することには合理性あり、株主総会を承認機関にしても投下資本の回収を害しません(145)。
また会社法は定款に定めることで譲渡承認機関を変更することを認めています(139Ⅰただし書)。そのため、株式の譲渡について、株主総会の承認を必要とする旨の定款変更も許されます。
2. 1万株以上の株式の所有者は、自社の製品を定価の4割引きで購入することができる
会社法第109条には「株主は、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱われなければならない」という株主平等原則が定められています。この原則に基づき、特定の株主に対して優遇措置を設けることは、他の株主と不平等な取り扱いを生む可能性があり問題となります。
ただし、株主優待制度は広く認められており、実際に多くの企業で導入されています。優待制度がすべての株主に対して一定の基準で提供されるものであれば問題はありませんが、このケースでは、1万株以上の株式所有者に限定して割引を提供するため、他の株主との間で差別が生じる可能性があります。
結論として、この定款変更は株主平等原則に反する恐れがあり、許されるべきではありません。
3. 平成21年度以降に発行する株式に対して行う利益配当は、それまでに発行した株式に対して行う利益配当の2分の1とする
利益配当は、会社の剰余金から行われ、原則としてすべての株主に対して平等に分配されるべきです(会社法第109条)。ただし、会社は、発行する株式の内容や配当の権利に関して異なる定めを設けることが可能です。
このケースでは、平成21年度以降に発行する株式に対してのみ、過去に発行された株式よりも低い配当を行うと定めています。これにより、同じ会社の株主であっても、株式の取得時期により異なる待遇が与えられることになり、株主平等原則に違反する可能性があります。
結論として、本会社が公開会社(2⑤)の場合、本問の定款変更は許されません。株主平等原則の現れである454条3項は明文で株式数に応じて剰余金を配当すべき旨を定めています。
本会社が公開会社でない場合、本問の定款変更は許されます。株主平等原則の例外として、剰余金の配当につき株主ごとに異なる取り扱いを行うことを定款で定めることが明文で認められています(109Ⅱ、105Ⅰ①)。
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