2019年(平成31年)5月30日、学生の採用活動における**「選考解禁日」として長年意識されてきた6月1日が目前に迫っています。この選考解禁日とは、日本経済団体連合会(経団連)が定めていた倫理憲章に基づき、会員企業に対して一律に採用選考活動の開始を求めていた期日のことです。しかし、このルールが適用されるのは、現行制度としては今年が最後となる見込みで、学生と企業双方にとって大きな節目となりそうです。
実際には、この「6月1日解禁」というルールは近年、形骸化しているとの指摘が相次いでいました。就職情報会社ディスコの調査では、2019年5月1日時点ですでに内定率が51.1%に達しており、前年同期と比べても8.9ポイントも上昇しているという驚くべきデータが出ています。これは、もはや就職活動の当事者である学生の半数以上が、解禁日より前に内定を手にしていることを示しているのです。
企業側も、優秀な人材をできる限り早く確保したいという思惑から、選考活動の前倒しに拍車がかかっています。ディスコの調査によれば、3月から4月中旬にかけて選考を開始した企業が6割以上を占めており、早期化の傾向は明らかです。このような状況下、すでに内定を持つ学生は「就活を継続するか否か」という新たな選択に迫られています。多くの内定者が、早期に内定を得た企業を「滑り止め」として、本命の大手企業や人気企業の選考に挑むのが現在の「王道パターン」と言えるでしょう。
都内の私立大学に通う経済学部の男子学生Aさんも、4月に大手旅行会社から内定を得たものの、その後の航空やインフラ関連企業の選考結果を待っている状態だそうです。彼は「妥協はしたくない」「少しでもいい企業に入りたい」という親の期待も背負いながら、6月選考の大手鉄道会社を本命として準備を進めています。ディスコの調査では、5月時点で内定を持っていた学生のうち、57%が「就活を継続する」と回答しており、内定者の半数以上がさらなる高みを目指して活動を続けているのです。こうした、内定を保持しながらも就職活動を続ける行為は、「仮面就活」とも呼ばれ、「売り手市場」(学生優位の採用環境)の今、より有名で人気のある企業を志向する学生が増えていることが強く窺えます。
また、今年は公務員試験との併願者が増加するのではないかという見方もあります。採用活動が前倒しになったことで、秋にかけて実施される地方公務員や国家公務員の試験と両立しやすくなったためです。現時点で「滑り止め」の内定を持つ学生は、落ち着いた精神状態で公務員試験に臨めるというメリットがあるからです。しかし、現実はそう単純ではありません。昨年の就職活動では、神戸大学法学部の女子学生Bさんが、準大手銀行2行から内定を得た後、本命の公務員試験を受けるために内定をキープしようとしましたが、銀行の人事担当者から「1週間以内の決断」を迫られたといいます。彼女は結局、内定キープを断念せざるを得ませんでしたが、もし公務員試験に失敗していたら、という不安を抱えながらの決断だったでしょう。
「ナイ内定」組の焦り:就職戦線の二極化が鮮明に
一方で、まだ内定を一つも得られていない「ナイ内定」組の学生たちは、大きな焦りを感じています。大阪府内の私立大学4年生の男子学生Cさんは、「周りが内定をたくさんもらっているので焦っています」とため息をついています。体育会系の部活動に熱中し、周囲の友人がインターンシップに参加するのを横目に「後で挽回できるだろう」と楽観視していたとのこと。しかし、本格的に就活を始めたのは5月の連休明けと出遅れてしまいました。
現在、Cさんのように出遅れてしまった学生は、プロフィルを登録して企業からのオファーを待つ「逆求人サイト」などで活動の幅を広げています。逆求人サイト「キミスカ」を運営するグローアップによると、2019年5月1日から27日の登録者数は前年同期比で27%増を記録しており、「就活生は明らかに二極化している。ここに来て慌てて始めた学生が一定数いる」と同社は分析しています。ナイ内定組の多くは、知名度の高い大手企業ばかりにエントリーして失敗しているケースが多いようです。これは、売り手市場だからこそ、業種やエントリー数を絞り込んでしまう傾向が強まったことによる弊害かもしれません。
明治大学就職キャリア支援センターの担当者は、「6月上旬に有名企業の選考が一巡した後、『BtoB企業』や中堅企業の選考が本格的に始まります。BtoB企業とは、Business to Businessの略で、一般消費者ではなく企業向けに製品やサービスを提供する企業のことです。皆さんが普段耳にする機会は少ないかもしれませんが、非常に高い技術や強固なビジネス基盤を持つ優良企業が多数存在します。ナイ内定組の学生には、この時期に改めて自己分析を行い、自分に合う企業を探してほしい」と力強く呼びかけています。
多様化する採用手法:異例の「秋冬選考」の動き
企業側も、人材獲得のために採用手法を多様化させる動きを見せています。例えば、損害保険ジャパン日本興亜は、2019年から秋・冬選考を開始する予定です。9月から12月にかけて選考を行い、10月1日の内定式**(内定者に正式に内定を通知する式典)以降に順次内定を出していくという、異例の試みです。同社は「様々な経験を積んだ学生に受けてもらいたい」としており、新卒一括採用の時期に間に合わなかった優秀な人材や、留学経験者、公務員試験受験者など、多様な背景を持つ学生の採用を目指しているようです。
内定を持っても就職活動を続ける学生と、そこに狙いを定めて採用時期をずらす企業。長年のルールが崩壊しつつある2019年の就職活動は、まさに**「ルールなき就活」**の多様化を象徴していると言えるでしょう。学生にとっては、選択肢が広がる一方で、自己責任で情報を見極める力がより一層求められる時代になっている、というのが私自身の見解です。この過渡期とも言える採用市場の動向から、今後も目が離せません。