「年収の壁」とどう向き合う?拡大する厚生年金加入条件が生む企業の思惑

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2023年10月から、週20時間以上勤務し月収8万8000円以上といった条件を満たせば、従業員数が「51人以上」の企業でも厚生年金に加入できるようになります。これまでは「101人以上」だった対象が広がることで、多くのパート勤務者が公的年金や傷病手当金など充実した制度を利用しやすくなるはずです。しかし一方で、企業側が保険料の半分を負担することを敬遠し、働く人に就業調整を促す「年収の壁」をつくり出しているという指摘が増えています。

第3号被保険者として会社員の夫の扶養に入っているパートが、保険料による手取り減を警戒して勤務時間を抑えるケースは、これまでもよく話題になってきました。ところが最近は、「就業調整しないなら時給を下げる」「勤務期間を2か月以内で切り上げる」など、企業側が露骨に保険料負担を回避しようとする動きもあるようです。実際、スーパーやドラッグストアの求人広告の中には「週5日でも1日あたり4時間未満」に抑えて厚生年金に該当しないよう設定しているのでは、という例も報告されています。一般の人たちからは「いつの間にか会社にうまく利用されているように感じる」「本当は社保の手厚い保障が欲しいのに損をする気がする」という声が聞こえます。

これまでも従業員数が多い企業では、厚生年金に加入する利点をしっかり説明するところが多かったため、就業調整に至る割合は比較的低かったそうです。ところが、企業規模が小さくなると、人事・総務の体制が十分でなかったり、財政的に保険料折半が負担になったりして、パートに長く働かれては困るという考えが強まりやすいといわれます。専門家の中には「10月からの適用拡大で、意図せず勤務時間を減らされる人がさらに増えるかもしれない。もし会社の方針が合わないなら転職も一つの手段だ」という意見もあります。人手不足のなかでも社員を大切に扱い、保険料負担を分担してでも長く働いてもらいたいと考える企業も確実に存在するだけに、働き手は自分に合った雇用環境を選ぶことが重要になるでしょう。

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