インドセメント業界の覇権争い、富豪たちが狙う成長市場の頂点

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インドのセメント業界で、国内有数の大富豪が率いる企業同士が激しい覇権争いを繰り広げています。巨大インフラ市場の成長を背景に、競合他社の買収によって生産能力を拡大しようとする動きが加速しています。インド最大手のウルトラテックを率いるクマール・マンガラム・ビルラ氏と、急成長を遂げるアダニ・グループのゴータム・アダニ氏の戦いは、インドの経済界でも注目を集めています。

ビルラ氏が率いるウルトラテックは、2023年6月以降、老舗企業インド・セメントの株式56%を約1000億円で取得しました。これに先立ち、2022年にはケソラム・インダストリーズのセメント事業も買収し、約6年間の沈黙を破り再び攻勢に出たのです。この動きは、2022年にアダニ氏がスイスのホルシム社からインドのセメント事業を105億ドルで買収し、業界2位に浮上したことへの対抗策といえます。

アダニ氏は、インフラ事業の豊富な経験と広範な事業ネットワークを生かし、セメント事業を一気に拡大する戦略を明確にしています。2028年までに生産能力を1億4000万トンに引き上げる計画で、追加投資を通じてさらなる生産能力増強を図っています。一方、ウルトラテックも2026年までに2億トンを超える生産能力を目指し、両者の競争は熾烈さを増しています。

業界関係者によると、セメント業界の最大の課題はコスト競争にあります。セメントの生産では電力、燃料、輸送費が大きな負担を占めるため、アダニ氏はグループ内のインフラ資産を活用してコスト削減を図る構えです。一方、ウルトラテックもすでにインドの主要インフラプロジェクトにセメントを供給しており、互いに巨大プロジェクトを抱える両者の競争は、さらなる価格競争を引き起こす可能性があります。

市場全体での競争激化は小規模なセメントメーカーにとって厳しい状況を生むでしょう。実際、既に一部の小規模企業は赤字に転落しており、さらなる買収の機会が訪れる可能性があります。専門家は「競争が激化すれば価格下落が進み、小規模事業者の淘汰が進む」と指摘しています。

こうした展開は過去のインド通信業界と似ています。リライアンス・インダストリーズ傘下のジオが低価格戦略で市場を席巻し、通信業界が数社に集約された経緯があるため、セメント業界も同様の再編が進むと見る向きがあります。

インド政府はインフラ整備を積極的に推進しており、急成長するセメント市場は今後も拡大が見込まれます。格付け会社ICRAは、2020年度から2024年度にかけて生産量が約38%増加すると予測し、今後も住宅需要やインフラ整備がセメント需要を支えるとしています。ビルラ氏とアダニ氏が繰り広げるトップ争いは、インドのインフラ成長の象徴ともいえるでしょう。

インドセメント市場の未来を握る巨人たちの行方
市場規模が拡大する中で、さらなる買収競争や価格競争の行方は業界全体を左右するでしょう。急成長を続けるインドのインフラ整備を背景に、両者の動向は国内外の投資家にも注目されています。果たして、この激しい覇権争いを制するのはどちらなのか、今後も目が離せません。

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