働く場所の新しいカタチ:原宿から地方まで、開かれた職場が生む偶発的な価値

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東京・原宿の神宮前交差点に誕生した新商業施設「ハラカド」。その3階にあるデザイン事務所「れもんらいふ」は、オフィスとショッピング空間が交錯するユニークな場です。エスカレーターを上がると、目の前にはデザイナーたちが働く姿が広がります。打ち合わせをしている横で買い物客がデザイン書籍を手に取る光景は、この場所ならではの光景です。「ここで働いているんですか?」と驚かれることも多いと話すのは、代表でアートディレクターの千原徹也さん。偶然訪れた人から仕事の依頼が舞い込むこともあり、「半分動物園状態」と苦笑しながらも、このオープンな環境が新しいチャンスを生み出していると言います。

千原さんの発想の背景には、1960年代に原宿セントラルアパートが生み出した独特の文化があります。当時、写真家やデザイナーが集まり、原宿の創造性を牽引したその雰囲気を再現したいという思いが、東急不動産の開発コンセプトと一致したのです。「街や人とつながりながら仕事をすることはデザインにも良い影響を与える」と千原さんは言います。

こうしたオープンな職場のアイデアは原宿だけにとどまりません。南青山にあるファッションブランド「OVERCOAT TOKYO」は、店舗兼アトリエという形態をとっています。洋服を作るためのミシンや裁断台が並ぶ店内で、スタッフが作業をしながら接客も行います。「お客様に直接評価してもらえる環境は、クリエイターとして情熱を持ち続けるために重要」と語るのは、代表の大丸隆平さん。お客との距離が近いこのスタイルは、デザインへの熱意を絶やさない秘訣だといいます。

さらに、北海道砂川市にオープンした「みんなの工場」では、化粧品ブランド「SHIRO」の製造過程をガラス越しに間近で見られます。「工場見学」という言葉から想像するような一方的な体験ではなく、日常的にものづくりの現場を見られる工場として設計されています。「手仕事の多さに驚く」という訪問者も多く、建築家の入江可子さんは「ものづくりを日常の風景にすることで、子どもたちが『自分にも何かできるかもしれない』と感じてほしい」と語ります。

こうした「開かれた職場」は都会や観光地に限らず地方にも広がっています。和歌山県白浜町にある宿泊施設「ゲストリビングMu南紀白浜」では、全国の旅館や農家など人手不足の事業者と、旅をしながら働きたい人をつなぐマッチングサービス「おてつたび」が利用されています。大阪市在住のフォトグラファー、阿波根里恵さんは「おてつたび」を活用して働きながら旅を楽しむ生活を送っています。「外の意見を聞くことで新しい視点が得られる」という宿屋の経営者も、こうした働き方に可能性を見出しています。

コロナ禍を経て働く場所の多様化が進む中、オフィスは単なる仕事場ではなく、文化を共有し、人とつながり、精神的な報酬を得る場としての役割が求められています。「企業文化を空気として感じ取る場が減った今、それをどう再構築するかが問われている」と指摘するのは、コクヨのワークスタイル研究所の山下正太郎さん。オフィスを超えた「開かれた職場」の広がりは、これからの働き方を大きく変える可能性を秘めています。

「開かれた職場」がもたらす未来:偶然の出会いから生まれる新しい価値

原宿のデザイン事務所や南青山のアトリエ、北海道の工場、さらには地方の宿泊施設まで、外部との接点を意識した働く場が増えています。偶発的な出会いや交流が新たな価値を生むこのスタイルは、単なる働き方の一形態を超え、地域や社会に新しい活力をもたらす可能性があるでしょう。働く場所を選ぶ自由が広がる中、こうした環境が増えることで、私たちの仕事への向き合い方も大きく変わるのではないでしょうか。

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