職場にアートを取り入れる新潮流:創造性とコミュニケーションを育むオフィス改革

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7月下旬、パーソルキャリアの会議室で行われたユニークなワークショップに約30人の社員が集まりました。一見すると図工の授業のようですが、中盤からは「会社の成長や進化」をテーマに作品を作る真剣な時間に変わりました。新しい本社に導入する壁画の制作アイデアを出し合うこのワークショップで生まれた作品は、見学していたアーティスト宇都宮涼子さんが最終的な形に仕上げる予定です。

このように、職場にアートを導入する企業が増えています。ワークショップを企画した「TokyoDex」は、2012年にオフィスアートを推進するために設立され、これまでに150件以上の導入実績があります。依頼を受けた企業のニーズを聞き、国内外300人以上のアーティストと連携して提案を行う同社の役割は、企業とアーティストをつなぐ“通訳”のようなものです。「アーティストの気持ちを大切にしなければ、良い作品は生まれない」と語るのは、代表のダニエル・ハリス・ローゼンさんです。

横浜市にあるリードも、創業50年を記念して「社員全員が関われて形に残るものを」とTokyoDexに壁画制作を依頼しました。宮城県仙台工場の壁には、社員が出したアイデアをもとに「成長」をテーマにした絵が描かれています。社員同士が話し合い、普段は交流の少ない若手とベテランの間にコミュニケーションが生まれたといいます。こうしたアート作品は、社員にとって自分たちの職場を象徴する「私たちのもの」という感覚を育むものになっているようです。

また、新宿にある「あんしん財団」のオフィスでは、絵画やオブジェ、写真のコラージュなどが展示され、思わず足を止めたくなる空間を生み出しています。同財団では、アートの導入を3年前から始め、毎年作品を入れ替えることで職員の感性を刺激しているといいます。

アートは職場に新しい風をもたらすのでしょうか。丹青社は2020年から働く場におけるアートの効果を検証しており、気分測定システムを活用した実験では「やる気や創造性に寄与する」ことがわかったとしています。アンケート調査でも「アイデアの創出に良い影響を与えた」という回答が17.2%に上りました。従来のビジネスでは、感情の表出や好き嫌いを語ることが敬遠されがちでしたが、アートには正解がなく、自由な解釈が可能です。これが、社員同士のコミュニケーションを活性化させるきっかけになるといいます。

海外では、こうした取り組みが先行しています。ドイツ銀行は1980年代からアートの収集を始め、現在では世界40カ国500カ所のオフィスに約5万点を展示しています。同社は「アートは未来をつくるための新しいアイデアを生み出す」と考えており、展示することで人々に刺激を与え、革新的な解決策を受け入れる下地を作っているのです。

11月には東京都中央区京橋に「TODA BUILDING」という新しいオフィスビルが開業予定です。このビルは低層階にミュージアムやギャラリー、アートショップを併設し、共用部にもアートが展示されます。開発を手がける戸田建設の担当者は「普段接点のないアーティストとの対話を通じて、新たな気づきを得てほしい」と語ります。

冒頭のワークショップでダニエルさんは「皆さんの中に眠るアーティストを一緒に探しましょう」と呼びかけました。アートを起点にした会話や外部とのつながりが、新しい働き方を創り出しつつあります。働く場所そのものが人々の心を動かし、職場をよりクリエイティブで生き生きとした空間へと変えていくのではないでしょうか。

アートを導入したオフィスは、社員に刺激を与え、コミュニケーションを活性化させる場となっています。偶発的な会話や出会いから新しいアイデアが生まれ、働く人々に新鮮な感覚をもたらすこの潮流は、今後も広がっていくでしょう。職場にアートを取り入れることが、ビジネスの未来を変えるきっかけになるかもしれません。

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