2019年6月現在、日本の個人消費には明らかな悪化の兆しが見えてきています。この背景には、人口減少や少子高齢化といった構造的な問題に加え、同年10月に予定されている消費税増税をにらみ、消費者がすでに節約へと舵を切っている現状があるからでしょう。国内市場が今後ますます縮小していくことが確実視される中で、流通企業各社には、単に販売量を競い合う旧来型の経営から、消費者の購買意欲を根本から刺激するような、新しい事業モデルへの転換が喫緊の課題として求められているのです。
実際、経営者層も現在の市場動向を楽観視してはいません。食品スーパー大手であるライフコーポレーションの岩崎高治社長は、「2018年末頃から消費者の購買意欲は明らかに冷え込んでいる」と指摘していますし、衣料品大手のしまむらの北島常好社長も、「単なる節約志向どころか、『安くても買わない消費者』が増加している」と、極めて厳しい見解を示しています。目の前の増税や景気動向に一喜一憂するような受動的な姿勢では、今後の成長は望めないでしょう。私たち流通企業がこの難局を乗り越え、成長の活路を見出すためには、「店舗」と「デジタル技術」を融合させた経営戦略をより深く磨き上げることが不可欠だと私は強く感じています。
世界と日本の成功事例に学ぶ「デジタル融合」戦略
デジタル技術と店舗の融合は、すでに世界で新たな成長を生み出しています。その好例が、世界最大の小売業であるアメリカのウォルマートです。彼らは、オンライン小売の巨人である米アマゾン・ドット・コムに対抗するため、革新的なサービスを導入しました。具体的には、ネットで注文した生鮮食品を、顧客が車から降りることなく店舗で受け取れる「カーブサイド・ピックアップ」といったサービスです。この利便性の追求が功を奏し、ウォルマートは再び成長力を高めているのです。
国内においても、このオムニチャネル戦略を巧みに展開し、好業績を上げている企業があります。それがニトリホールディングスです。ニトリは、実店舗とネット販売を組み合わせ、顧客が店で実物を確認した後に、自宅へ戻ってからスマートフォンで購入できるサービスを導入しています。これは、ネットショッピングの利便性と、実店舗で商品を手にとって確認したいという消費者のニーズを見事に両立させている事例でしょう。このように、「買いやすさ」を徹底的に追求する姿勢こそが、これからの時代に求められる競争力の源泉だと考えられます。
SNS上でも、「ウォルマートやニトリのサービスは、忙しい現代人のニーズにピッタリ合っている」「ネットとリアルの良いとこ取りで、本当に便利になっている」といった好意的な意見が多く見受けられ、デジタルを活用した利便性向上の取り組みは、消費者からも高く評価されていることがわかります。
高齢化をチャンスに変える「サービス業」への転身
「買いやすさ」の追求と並行して、流通企業が今後絶対に欠かせないのが、「消費者の抱える悩み」を解決するための工夫です。これまで私たちの日常生活を支えてきたスーパーマーケットも、今や「いつでも、どこでもモノが買える」時代において、主力である食品を単に安く売るだけでは限界を迎えています。そこで重要になるのが、小売業を従来の「物販」から「サービス業」へと根本的に転身させるという発想です。
例えば、北関東を地盤とするスーパーのカスミは、2018年3月から「ヘルスサポート」という無料サービスを展開しています。これは、店内の空きスペースを利用し、月に1〜2回、買い物客に対して健康アドバイスを行うというものです。具体的には、血圧や脳年齢を測定し、個々人の食べ方や健康状態に応じた食品を紹介しています。これは、来店客数の増加を促し、結果として売り上げの拡大につなげるという、極めて戦略的な取り組みだと言えるでしょう。
今後、少子高齢化が進行することで、全体の購買力は低下する傾向にありますが、その一方で、健康や生活の質に対するニーズは確実に高まっていきます。スーパーが持つ「地域に密着した店舗」という優位性を生かし、高齢化という社会的な変化を逆にビジネスチャンスへと変えるこの戦略は、未来の流通業の姿を示唆しているのではないでしょうか。健康を切り口にした顧客との接点強化は、単なる販売促進ではなく、地域社会のインフラとしての役割を果たすことにもつながり、企業価値を大きく高めるはずです。